月曜日の午前中は、何かと気忙しかったが、午後に入っていつもの平静さを取り戻しつつあった。達郎は、勤務の間に、自分のデスクからNTTの番号案内にかけて、丸屋、竹坂屋、梅屋、西急、南武の各百貨店の本社の電話番号を調べた。竹坂屋のみ本社が大阪だったが、東京の事務所の番号をきいた。その番号を記録したメモを持って、午後の外回りに出た。

梅田の地下街を通り抜け、駅前第二ビルの中に並んでいる公衆電話を握った。通話料の支払いは、家庭の電話料金と合算されて請求がくるCカードを使用した。これなら、カードが切れて、電話がかけられなくなることもなくエンドレスでかけられる。まずは、丸屋の代表番号にかけた。所在地は渋谷区だった。

「毎度ありがとうございます。丸屋でございます」

「あのー、ちょっとお尋ねいたしますが、御社のどこかの店長さんで、シンノスケさんという方はおられますか」

「は……」

電話交換手は、達郎の真意が良く理解できなかったようだ。

「実はですね、わたくしある書類が入った封筒を拾得いたしまして、その袋の裏に、何とか百貨店、店長、何とか、シンノスケと書いてあるんですが、百貨店の所と、名字の所が、消えて見えないんですよ。中には、経営に関する数字と思われる大切な書類が入っているようなんですが……」

達郎のうまい嘘に、交換手は真剣になって、社内のしかるべきセクションに相談しているようだ。そして、人事部につながれた。

「はい、人事部です。ご用件の向きは承りました。しばらくお待ちください……」

丸屋百貨店人事部は、達郎の申し出に対して、誠心誠意対応しているようだ。

「お待たせいたしました。当社の全店の店長を確認したところ、シンノスケという名前の者はおりませんでした。おそらく、別の百貨店さんかと思われますが……」

「ああ、そうですか、はい、わかりました」

達郎は、次に西急百貨店にかけた。ここでも人事部につながれた結果、シンノスケはどこにもいないという答が返ってきた。三番目は、南武百貨店にかけた。ここは、総務部が対応したが、やはりシンノスケは見当たらなかった。梅屋も竹坂屋も同じだった。

いない、そんな馬鹿な……。確かに、四十九日の法要の日にトイレから出てくる時に、千絵がデパートの店長と言っていたはずだ。おかしい……いないはずはないんだが……達郎はがっくりと肩を落とした。そして、あてもなく地下街をさまよい歩いた。