お見合い

「山本靖夫と申します。よろしくお願い致します」

二人が席に着くと男は少しはにかんだような声で自己紹介をすると軽く頭を下げた。美紀親子の自己紹介が済むと女中が呼ばれ、昆布茶を飲む間もなくすぐに食事の用意がされた。螺鈿の施された座卓に並べられた海鮮料理は食べ切れないほどの豪華なもので、掛かりはすべて組合長側が負担することになっていた。

見合いは互いが品定めをする場所であり、相手をジロジロ見ることは失礼には当たらない。しかし、こちらがジロジロ見ていることは相手もその様子を窺っているということを意識しなければならず、さり気なさを装いながら行う必要がある。

美紀は目の前に座って食事をする靖夫の仕草を上目使いに黙って眺めた。靖夫と目が合った。美紀はとっさに近くに置かれた銚子を取って両手を添えて靖夫の猪口に酒を注ごうとした。

「どうぞ、靖夫さんは日本酒がお好きなのですか?」

初めて口を利いた言葉だった。美紀の頬が少し赤く染まった。

「有難うございます。酒はビールも含めて不調法であまりいける口ではありません」

靖夫も猪口に両手を添えて受けた。その後、美紀は幾度も勧めたが靖夫の受けた猪口は二杯ほどだった。

しかし、美紀は勧められるままに飲んだ。デザートとして最後に出されたメロンの六つ切りをスプーンで掬い、上品に口に運ぶ様子は靖夫の育ちの良さを窺わせた。少し覇気の無いのは気になったが、さほど口を利かずモジモジとする様子は女に初心なところがあるのだろうと解釈し、美紀は結婚しても母のように女で苦労することは無いだろうと好ましさを感じた。親たちは笑みを湛えながら黙って二人の様子を眺めていた。