不幸な結婚生活

そんな普通の家庭では起こらない出来事が、ほぼ毎日続けて起こる状況に嫌気を感じたのか、雄二が7才になったある日、直美がアパートに元夫がいないのを確認してから、私にこう話しかけてきた。

「お母さん、私は今まで黙ってきたけどもう我慢できない。お父さんがいない生活がしたい。おばあちゃんの家に、お父さんを除いた家族全員で引っ越して生活しよう!」

我慢強い直美が、真剣な表情でここまで言うのだから、私も少し冷静に考えてから返事した。

「直美がそう思っていたのは分からなかった。しかし直美、少し冷静になりなさい。おばあちゃんの家には、直美の伯母さん夫婦も一緒に生活しているのよ。私達の都合だけで迷惑をかけるわけにはいかないのだから」

私の返事を聞いた後、直美が言い返してきた。

「お母さんに聞きたいのだけど、お父さんと一緒に生活していて、今の状況が本当の家族としての生活だと思えるの?

お父さんはお母さんや私達の面倒を見るのをすぐに放棄するし、自分がしたいようにできない時は、必ず大声を出して精神的に威嚇してくる。そして、ハサミなどを私達の身体にぶつけて肉体的苦痛を与える。

他にも、私が自分の勉強机で勉強していたら、急に近寄ってきて両肩を揉めとか腰と両足のふくらはぎをマッサージしなさいとか命令しては、納得できないと大声を出して精神的にまた威嚇してくる。

この間なんか、お母さんが夜勤でいない時に冷蔵庫の中に缶ビールが無かったから、夜中に私1人で近所の酒屋へすぐに買ってこいと命令されて怖かったから行ったけど、私が未成年だから買えなかったのでそのまま帰宅したの。

すると、買い物する為に預かったお金を急いで取り上げてから『何回もお願いしてでも、親の要望に応えるのが子供の役目だろう』と言って、またハサミなどをぶつけてきたので、身体中にアザがたくさんできてしまったのよ。

言い出したらきりがない。私は、もうあの父親を自分の家族とは認められない。一緒に生活したくない。このアパートから3人で引っ越ししよう!」

私は、直美が言い終わって少し時間が経過してから話し始めた。

「直美の気持ちは分かったわ。しかし、どこかに引っ越しするにしてもお母さんの収入だけでは、とても3人だけで生活していく事は難しいの。だから、今は辛抱してちょうだい。あなた達が大人になって、3人とも経済的に余裕が出来るようになってから考えましょう」

その返答を聞いた直美は、まったく納得ができない表情をしながら、そのまま黙ってその場を離れて自分の部屋に戻っていった。

直美と2人で話し合いをした後も、本当の家族としての生活とは思えない日々が続いた。

雄二も成長し、自分の生活の周辺で起こる出来事が異常であると理解できる年齢になって、今から話をする事件を決行しようと準備しているのを、直美が説得してやめさせたのを後で聞かされて、私は非常に驚いた。