当日佐藤は、伊藤、鴻池と共に、仕立ての良いスーツを着こなした紳士然とした李に面会した。

「佐藤です。よろしくお願いします。以前、国際事業本部で何度かお会いしましたが、相変わらずお元気でご活躍のようですね。ところで、当社は、バブル期に手掛けた海外事業の内のいくつかの事業が赤字に陥っており、経営の見直しを進めています。KDPも設立以来赤字経営で、繰越損失もすでに三〇億ウォンあり、存続か、清算かの選択を迫られています。そこでお願いですが、先ず経営をガラス張りでお願いしたい」と言った。

すると、李は、「KDPは、常にガラス張り経営をしている」と、露骨に不快感を示した。

構わず佐藤は、

「役員人事について、私が前倉本社長を引き継いで、理事会長にさせていただきます。今後決裁書類は、全て日本側理事会長、韓国側代表理事の両者の承認の下に進めていただくようお願いします。

次に、KDPの伊藤前理事の役員報酬を同氏名義で現地の銀行に預金していますが、預金通帳を高梨副社長に預けていただき、当社に二回に分けて入金していただきたい。なお、本件は、七月をもって中止して下さい。

また、李社長個人に十年余りにわたり滞留している貸付金がおよそ一億五千万円あります。この貸付金の具体的な返済計画を出して下さい」

「分かりました。貸付金の内、増資資金の四千五百万円は、担保の株券を引取って相殺にしていただきたい。残額については、返済計画を出します。さて、私からの提案ですが、日本からの借款をベースとした低利の中小企業向け融資九億ウォンが受けられるので、樹脂製造のため、建屋、設備を増設したい。了解していただきたい」

「その件については、目論見書をいただき次第検討いたします。それから、最後になりましたが、高梨副社長の現地給与は、当社規定による給与手取額でご協力をお願いします」

伊藤や、鴻池は、李が、前任の社長時代にストップを掛けていた樹脂製造計画を再び持ち出したのに驚いた。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『破産宣告』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。