それは、刑事の一言が頭のなかにこびりついていたからだ。

「熊谷さん。こんな悪い奴の犠牲になる必要はない。官製談合でやればH建設もS設計も潰される。社員やその家族のことを考えれば、警察の正義はそこにはない。横領でやればオカダと業者の社長だけの逮捕で済む」

警察の言う正義は私の考えにはなかった。

官製談合防止法は知っていたし、H建設が告発したとすれば潰されることはない。私の逮捕と章設計が潰されるのは覚悟のうえ。章設計が潰されても、測量会社として独立すれば社長はやっていける。

私は罪を犯しました

水子地蔵設置を六地蔵に変更することの条件として、南信州新聞に掲載されることを私はやめるよう依頼した。

そして、オカダ村長からの提案であったとしても、その見返りと私自身が理解していたにもかかわらず、私は園原資料館建設を受け入れ、設計を請け負った。

H建設が工事を請け負うのも承知していた。園原部落に対して、事がうまく進むようにクマカワマサオ議長にお願いもした。

このようなことは犯罪であると、私は知っていた。その罪とは官製談合。

これまでは飯田市や阿智村に横行する談合には一切かかわらずにきた。忌避してきたと言ってよい。それなのに、若い頃からの夢であった園原資料館を手がけられるという想いに負けたのだ。

正したい、正せばよい。

社長を伴い役場に行ったのは、提訴することを表明した文書をオカダ村長に渡すためだった。だが、不在だという。最初にスズキユキオ参事に突きつけた。山内常広総務課長兼参事にも見せた。二人とも何も言わない。ヤマガミムネオ参事、その横にオカバヤシ係長が怪訝な顔で私を見あげる。

大きな声で読みあげた。

ヤマガミ参事の顔は見る見る青ざめ、私へ焦点の合わぬ視線を送る。逃げるように、きびすを返しカウンターの外へ。

「オカダカツミとヤマガミムネオは行政理事者の立場で不正を行いました。よって私はここに提訴します。あなたたちはオカダ村長の職員ではありません。阿智村の職員です。私はオカダカツミ、ヤマガミムネオの個人の不正を提訴します」

大声で言った。どの職員も私を見ようとしないが、聞き耳は立てていた。