智子がスナックを開業しようとすることがわかると、ずぶの素人が選りに選って水商売なんぞに手を出すとは何事かと親戚筋から相当な批判が噴出した。真っ先に飛んで来たのは、叔母の和子だった。

「智子、小さい子を残して働きに出るのが忍びないのはわかる。でも、商売を始めるにしても食堂やレストランならまだしも飲み屋とはどういうこと? 飲み屋は酒を飲ます所だよ。客は全部酔っぱらいや。第一、華奢なあんたがグダグダ管をまく酔っぱらいの面倒を看られるのかい? 何か間違いが起こってからでは遅いんだよ」

和子はそんなことを言いながら智子に考え直すように日を変えて何度も説得を繰り返した。和子の考えは親戚筋全部の考え方でもあった。しかし、智子はどういうわけかそんな説得には頑として耳を貸そうとせず、着々と開業に向けての準備に取り掛かったのだった。

小さい頃住んでいた美紀の家は小学校の近くにあった。町には旅館と民宿が立ち並び、この地方では大きめの漁港もあった。

智子は、住んでいた家と船を処分して港の近くに住居と店を兼用した二階建ての家を建てた。店だけを建てて通う方法もあったのだろうが、智子は孝雄の匂いの残る家を嫌い何のためらいもなく売却を決めたのだった。