三 美味しい食の話

1 年の始めのためしとて

「おせち」。それは、日本各地の冬の「山海の珍味」がいっぱいにつまった年の始めの美味しいごちそう。数の子に黒豆、紅白の蒲鉾、栗きんとん、田作り、ごぼう、酢れんこん……。特に紅の何とも言えない人参は、「お重箱」の中の色彩の妙といっていい。

私の幼い頃は暖房設備がまだ乏しかった時代で、暖をとるのは「火鉢」、温まるのは「おこた」だった。

いずれも炭火の柔らかな温かさだ。おこたに入りながらいただくのは「みかん」。酸っぱみの強いその頃のみかんは後を引き、おこたの上はみかんの皮の山となる。

元旦は「お屠蘇」の儀式で新年のお祝いをし、「お雑煮」をいただいて一年が始まる。そして、とっておきの着物で身なりを整え、神社・仏閣にお参りし、一年の無事を祈願する。

ひと昔前のお正月には、新年の挨拶にお見えになる方々と、拙宅でこの一年の幸あらんことを願い寿ぎ、酒肴をお出しする。いつも話は弾み、賑やかな酒宴となる。そこで、例の「お重」の登場となる。

それは、大晦日に丸一日がかりで作り上げた、愛のこもったものだ。もっとも巷では、「お重」の中も国際的になって、ローストビーフや北京ダックなども紛れ込んでいるとか。食文化が世界的に広がりを見せているのだろう。

二〇一一年の一月三日は、能楽界の一年の口開けで「新春能」が行われた。初会能は、良い一年の初めの催し。恒例の『翁三番叟』から、中国のおめでたい話『鶴亀』と続いた。皇帝と鶴と亀の登場で新春の慶祝を盛り上げる。私は皇帝の役を演じた。荘厳な能舞台の中で、新たな春の訪れを心の中に感じながら舞っていた。

このところ、恵まれないお子さんたちに「ランドセル等」を匿名で差し上げるという、嬉しくも、とても良い話が連日報道されている。「タイガーマスク現象」といわれるようだが、全国各地に伝播しているのは素晴らしい!

日本人は、気にかけていないように見えても、思いやりの心が深く内在しているような気がしてならない。この「心の優しさ」、「気遣いのきめ細やかさ」は世界に誇っていい日本人の伝統。世界に対して自信を持って歩みを進めるべきだろう。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『世を観よ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。