だんごで勝負

ササニシキはかつて、コシヒカリと並び人気のあるごく一般的な米の品種であった。しかし、1993年の夏、寒く湿った天候不順に見舞われ、悪天候と気温の変化に対する抵抗力が低いササニシキは大きな打撃を受けていた。

それ以降、宮城県の米農家はコシヒカリやひとめぼれなど収穫しやすい品種を多くつくるようになったと言われている。今でも、ササニシキの生産農家は少なく、稀少米として扱われているのが証左でもある。

『いち福』のだんごに使用するササニシキ米は、宮城県の米どころである大崎市でつくられる。毎年、生産者である横山廣さんが丹精込めてつくっているササニシキ米を直接仕入れさせていただいている。

父の思惑通り、ササニシキ米はだんごとの相性抜群で、ほかの米で試してみたが、『いち福』のだんごの特徴である歯切れの良い食感とさっぱりとした味わいは、やはり横山さんのササニシキ以外に考えられない。

「うまいね」

お客様の一言に笑顔になる父。

「しかし、あんまり見ない形のだんごだね。普通のだんごは3玉でまん丸だけどここのは5玉。そんでもって俵型しているね」

「うちはさ、米を擦り潰して練り出してだんごにするんだけど、練り出すときに丸い棒状で出てくるわけ。金太郎飴みたいに」

身振り手振りしながら説明をする父。

「その棒状の生地を5本並べて串を打つの。蒲焼きみたいに。普通のだんごは生地を丸くしてから一個ずつ串に刺して3玉とか4玉のだんごにしていくんだけど、うちは一気に串刺したあと包丁で切って一本のだんごをつくるんです。このつくり方だと一人でつくっても数がつくれるんですよ」

自分がつくっただんごを片手に説明を続ける。

「3玉じゃ口に入れたとき大きくて子どもが喉ひっかけちゃうでしょ。5玉だと1個ずつは小さいから子どもが一口ずつ食べんのにちょうどいいんだ」

父はいつでも子どもやご老人の立場に立ってものづくりを考える。

「デカくて満足する一本もいいけど、俺はもう一本食べたくなるような、食べた後にもう一本に手が伸びるようなだんごを目指してんだ」

自分のつくる理想のだんごに思いを馳せる父。父がだんご一本に込めた気持ちは今でも伝わる。現在も毎朝つくる5玉の串を見るたび当時の父のお客様に対する優しさが伝わってきて、だんごとともに生きると決めた父の覚悟を感じる。