華麗なる変身!?

しかし、父がつくろうとしているだんごは、ご飯で食べる米を蒸し、擦り潰し、練り上げることで餅状にしているのが特徴で、純粋な米の甘みや旨味が濃縮されただんごなのだ。ご飯は噛めば噛むほど甘みが増していく。あんな感覚である。食感も弾力があり、歯切れが良い。なめらかな生地で、一般的なだんごとは一味違う。

一方、この材料や調理法だと添加物や甘味料などを入れないでつくるので、当日中、早めに食べないと固くなるといった難しい特徴もあった。この思惑は、想像を超え現実をとらえることとなった。

ある日の朝、仕入れに行くはずだった魚市場に父の姿はなく、母に寿司屋を辞めてだんご屋をやる決意表明をしていた。

「やると決めたらやるんだ」

あまりのことに動揺を隠せない母。

「どうして急に……」

「昨夜、一晩本気で考えて決めた」

「どうして相談しないの? 今までのお客様はどうするの?」

「……」

それには答えず、母の反対を押し切り、父は今まで使っていた米をシャリではなくだんごに変えた。

今考えれば、子ども三人を抱え、修行時代から考えると20年近く続けてきた寿司の世界からの転職は、相当の覚悟があったのだと思う。そんな状況も知らず、当時の私は好きな食べ物が寿司だったので、だんご屋になった実家には、少しがっかりしていた。

父はだんご屋をやっていた友人からつくり方を教わっていたみたいで、父の2度目の修行が始まっていた。

短期間ではあったが午前中は友人のだんご屋を手伝いながらだんごづくりを教わり、午後になると自分の店に戻り寿司屋として使っていた店舗を自分で改装し、なるべくお金がかからないようにくら替えに向けて動いていたようだ。ここでも父のものづくりは役に立っていたようで、とにかく自分でできることはなんだってやっていたみたいだ。

こうして、寿司屋だった実家の『好寿司』は、だんご屋の『だんごいち福』として再スタートを切り、父のセカンドキャリア、だんご職人としての人生が始まったのだ。開店して初めて『いち福』に来店していただいたお客様は、好寿司の常連のお客様だったと聞いた。

「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます」

「開店おめでとう! 大将待っていたよ! 大将の寿司が食べられないのは残念だけどだんごは楽しみだね!」

「ありがとうございます! また一からになりますがどうぞよろしくお願いいたします!」

ササニシキ米を使っただんごを販売すると決めて、一念発起で始めただんご屋は、父の根っからの“商売”気質と母の温かい接客により段々と地域に認知されていったようだ。