歌劇 『雪女の恋』

❖登場人物

雪女 こゆき

姉 ふぶき

里人 弥助

山の神

第四場

音楽「弥助の恋」。
舞台の照度が元に戻り明るくなる。弥助が登場する。

弥助 こゆき……こゆき こゆき……
弥助は 来ました 雪のお山へ 命をかけて!
抑えきれない 思いのままに こゆきはいずこへ
お前に 逢いたい 渦巻く雪に 倒れても 弥助は 来ました
抑えきれない 思いのままに 命をかけて! 
こゆき いずこへ こゆき いずこへ
お前に 逢いたい こゆきに逢いたい

「風・吹雪」(断続的に続く)。こゆきが舞台上手に走り出る。ふぶきが遅れて現れる。
弥助は、舞台前で呼びかけ続ける。こゆきとふぶきは、背後で弥助を見つめ立ち尽くす。

こゆき どうして 来てしまったの
ふぶき やはり 来てしまった
こゆき あれほど 言ったのに
ふぶき 思いは 止められない
こゆき・ふぶき 早く立ち去れ お山へ来るな
命が惜しくば お山へ来るな
こゆき あれほど 言ったのに
ふぶき 思いは 止められない

こゆきが弥助に駆け寄ろうとするが、ふぶきが立ちはだかる。「風・吹雪」が強まる。

弥助 お山に こゆき 里には 弥助
離れ離れは 胸締めつける
雪が降れば こゆきを思う 星が光れば こゆきが浮かぶ
お山を見上げて 天仰ぐ  星のすべてが こゆきに変わる
舞い散る雪が 弥助をつつむ 弥助は来ました
抑えきれない 思いのままに 命をかけて
こゆき いずこへ こゆき いずこへ
お前に逢いたい こゆきに逢いたい

ふぶきがこゆきを突き倒し、弥助の背後を回りながら下手へ動く。
音楽「弥助の恋」に重なるように、「突風」。
弥助が、小さく回りながら倒れる。
ふぶきは弥助に近づき、大きく息を吸い込み吹きかけようとする。
こゆきが脱兎のごとく飛び出して、ふぶきを突き倒す。
ふぶきは立ち上がり、こゆきに迫る。こゆきは、気おされて後ずさりする。

ふぶき 恋をすれば 相手を想う 思えば 命を奪えない
雪女の務めは 果たせない お前には殺せない 
わたしが 男の 命を奪うわ
こゆき 嫉妬なんだわ
姉さん わたしに 嫉妬してるんだわ
ふぶき なんですって?
こゆき 姉さんの 恋は 消えた
男は 戻ってこなかった 人里へ 帰ったまま
でも 弥助は 戻ってきた 命を懸けて 
こゆきに 逢いに 雪のお山に 戻ってきたのよ!
ふぶき わたしが こゆきに 嫉妬する?
姉が かわいい妹に やきもちを焼く?
そう わたしの 恋は 消えた
消えた? ちがう! 消したのよ!
この わたしが 消した…… お前は 知らないだけさ!

こゆき 消した? 姉さんが!
お山に 来たのね あの人 姉さんに 逢いに
戻ってきたのね 命を懸けて 
ふぶき わたしは 女 雪女
こゆき 神のしもべの 雪の精
こゆき・ふぶき ヒトは凍らせ 命を奪う
こゆき 胸を大きくふくらませ 一息吹けば 
顔は白く凍りつき 体は固くなりたもう
ふぶき 白きむくろそのままに お山の土となりたもう
わたしは 果たした 雪女の 務めを! 
「山に踏みこむ人間を 血の温もりを 
凍らせよ 凍らせよ 命を奪え」

しゃがみこんだ姉をこゆきは強く抱きしめる。
「風・吹雪」が「山鳥の鳴き声」に変わる。
弥助が息を吹き返す。茫然としていて二人には気づかない。
まもなく、ふぶきとこゆきは弥助の意識回復に気づくが、
姉は近寄ろうとする妹を抱きとめたまま動かない。


弥助 ああ お山か 風は 止んでいる 吹雪は おさまった
ああ こゆきは いない
呼んでも 呼んでも どこにも いない
幻(まぼろし)だったのか ああ こゆき
あの日の顔は あの日の声は
吹雪に巻かれて 浮かんだ幻だったのか

弥助は下手に去っていく。
こゆきは追おうとするが、立ち止まる。

ふぶき 里人は 帰った 人里に 戻っていった
お前は 命を奪わなかった わたしとは 違う
恋を 消さなかった 命を 奪わなかった
こゆき でも 恋は 消えた 弥助は 姿を 消した
それなのに 心は熱い なぜ?
恋は 消えたのに 心は熱い!
ふぶき こゆき……
こゆき わたしは 幻ではない わたしは ここに いる 生きている!
姉さん
わたしは 弥助が 大切 
わたしは 弥助が 好きなの
弥助と 暮らしたい! 雪女 捨てたい!
ふぶき こゆき……

雷鳴のような響き。舞台暗転。
    
 

※本記事は、2019年8月刊行の書籍『雪女とオフィーリア、そしてクローディアス』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。