「このたびは、ご愁傷さまです……」

千絵の静かな声が返ってきた。

「ありがとうございます……ところで、伊藤さん、今、通夜と告別式に参列した方の名簿を整理しているんですが、まだどういう関係の方かわからない方が二名おりまして、伊藤さんにお尋ねしたいのですが……」

と言って、残りの二名の女性の名前を告げると、一人は付属の高校時代からの友だちで、そのまま系列の大学へは進まず、他の大学へ入った者で、千絵も良く知っていた。

そして、残りの一名は、千絵は詳しく知らないが、多分大学時代からの友人ではないかとのことだった。

「ところで、伊藤さん、うちの智子とは、色々と旅行に行かれていたみたいで……」

達郎は、もしかしたら千絵がいっしょに金沢に行ったのではないかと思い、かまをかけた。すると、

「ええ、もう沢山の思い出がありまして……金沢にもいっしょに行こうって言っていたのに智ちゃんは先に行っちゃって……こんなことになるのなら、私がいっしょに行ってあげれば良かったわ」

という答が返ってきた。やはり、この感じだと、金沢へ同行したのは千絵でもなさそうだ。

「そういえば、去年も長崎や四国に付き合っていただいたそうですねえ……」

達郎は、一応去年の旅行の話もふってみた。すると、

「……」

ほんの一瞬だけ間があった。おかしいな、何か隠しているのかな、達郎がそう思っていると、

「……思い出すと、涙が出てきちゃって……ごめんなさい……」

とむせぶ声がした。どうやら千絵は、電話の向こうで泣いているようだ。

達郎は、静かに電話を切った。

わからないなあ……智子は一人で金沢に行ったのだろうか……達郎は、どうして金沢に智子がいたのか、ますますわからなくなってきていた。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『店長はどこだ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。