しかし、小さい美紀にはわからなかったが、孝雄は自己を中心に据えて物事を考える性格で若い頃から女にだらしがなかった。

ある年の夏祭りの打ち上げ会で酒の酔いも後押しをしたのだろうが生来の性格が出てしまい、手伝いをしていた地元の漁師の嫁と深間になった。二人の仲はしばらく続き、隠れるようにこそこそと逢っていたが、慣れも出たのかやがて大胆になった。

二人が仲良く歩いているところを鵜方で見た、鳥羽のレストランで二人が食事をしているところに出くわしたとの噂が立ち始め、二人の仲が町の者に知られるようになったのだ。

町一番の稼ぎ頭である孝雄の噂であり、漁師たちのやっかみも影響したのだろうが噂は有ること無いことを交えて広がった。しかし、浮気をされている当事者を目の前にしてそんな話はしづらいのか知らぬは本人ばかりなりという状態がしばらく続いた。それでも、小さな町であり噂はやがて智子の耳にも届くこととなった。

スーパーマーケットの帰り道だった。

「智子さん、孝雄さんは今日もお出掛け?」

そう言って智子を呼び止め、「ええ、漁に出ていますが」と怪訝そうに答えた智子に町の噂を教えてくれたのは近所に住む同年輩の主婦だった。

同情を装ってはいたがどこか他人の波乱を期待しているような口調だった。

※本記事は、2020年11月刊行の書籍『浜椿の咲く町』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。