ゆりのパワーと優しさ

一か月後、今日は企業会。俊さんに買って頂いた着物と髪飾り。

「綺麗だ」

「ありがとうございます」

手をつないで会場へ入った。直ぐに山本さん、近藤さんが来た。

「山本さん、先日はお世話になりました」

「こちらこそ、本当にありがとうございました」

「その後、どうですか」

「ゆりさん、近くにいる女性って由紀さんですね。子供達と色々話して、由紀さんとも話しました。由紀さん、泣いて喜んで受けてもらって、籍を入れる事にしました。とても幸せです。余りにも近すぎて気が付かなかったのです。今井さん、本当にありがとうございました」

「わぁー良かったです。由紀さんしかいませんよ。泣かしたら私が許しませんよ。いいですね」

「怖いなぁ。分かりました」

「妻の博美も一緒に来ている。ゆりさんに会いたいと言っていたので」と、近藤さん。

「私も会いたかったです」

博美さんの所のテーブルへ。

近藤さんと山本さん会話

今井は相変わらず声がかかり、忙しく挨拶している。 

「山本さん、ゆりワールドいかがでしたか?」

「今井さんがこらえてください、と言うので何の事かなと思いながら、ゆりさんの話を聞いていたら吹き出しそうで大変だったのですが、今井さんも我慢できずに笑っていましたよ」

「分かります。さすがゆりさん。アハハハハ」

しばらくすると隣のテーブルでゆりさんの席を指さして、

「着物を着ている人、いい女だ」と岸の声が聞こえた。

「僕が声をかけてみる」と。

岸は、仕事は出来るが女癖が悪いプレイボーイで有名だ。彼がゆりさんに声をかけそうだ。ゆりさんのテーブルに向かっている。

「山本さん、面白そうなことがおきそうです」

「何ですか?」

「ゆりさんの席にプレイボーイで有名な岸が声をかけるみたいです」

岸がゆりさんの横を通るその時、持っていたシャンパンを着物に故意にこぼした。

ゆりさんはびっくりしている。

「あっ、すみません」

ハンカチで拭こうとした。

「触らないで下さい! 自分で拭きますので」

「僕がこぼしましたから」

「いいえ、誰でも失敗はあります。気にしないでください。ただ、故意にこぼしたのであれば、男としては最低です。とても大事な着物です」

「弁償させて下さい」

「結構です!」

「岸と言います」と名刺を差し出した。

「あなたの名刺はいりません。主人を呼びますので。それと、女性を甘く見ないでください。失礼します」

岸は口をあけたままびっくりしている。相当ショックを受けている様子。僕と山本さんは声を殺して涙を浮かべるほど笑った。

「さすが、ゆりさん」

ゆりさんは今井に電話をしている様子。今井、ゆりさんのところへ急いで行っている。

「博美さん、ごめんなさいね。先に部屋に帰りますね」と帰って行った。 

「山本さん、近藤、悪いが先に失礼」

連絡があった。

岸が僕のところに来た。

「近藤さん、着物の女性は今井さんの奥様だったのですね。僕、初めて振られました。それも男として最低と言われ、女を甘く見ないでとも言われ、ショックでしばらく立ち直れそうにないです」

「そうか。残念だったな。相手が悪かったな。これからは女性に誠実になれって事だよ。良かったな」