第1章 集いし者たち

コマンチ族といえば、インディアンの各種族の中でも、最も勇敢な戦士を生むことで広く知られている。中でも、レイジング・ウルフの一族は、代々歴戦の強者の家系であった。

祖父である「勇敢な狼」、ブレイブ・ウルフ。父の「巨大な狼」、ヒュージ・ウルフ。そしてその子である「荒れ狂う狼」、レイジング・ウルフ。

レイジングはまだ幼く、実戦経験すらなかったけれど、一族でもずば抜けた逸材との評判であった。

身長は優に190センチを超え、体重は90キロもあった。それでいて、抜群の俊足であり、弓を射れば百発百中、槍は誰よりも遠くに、かつ正確に投げることができた。すくすくと伸びた四肢に、赤胴色に良く焼けた筋骨隆々の体躯、そして黒い短髪に涼やかな瞳を持つレイジングは、人懐っこい性格で、その愛嬌のある笑顔は誰からも愛された。

レイジングの初陣は17歳の時である。父、ヒュージと共に、森林で白人たちを待ち伏せする任務であった。そこに不幸が襲った。

鬱蒼たる森の中、フィトンチッドの濃厚な馥郁(ふくいく)たる香りと、目にも鮮やかな木々の緑が辺りを包み込んでいる。時折差し込む日差しが揺れる中、小鳥の鳴き声だけが静寂に消えていく。親子は目線と手振りで、それぞれの位置につき、白人たちの襲来を、気配を殺してひたすらに待っていた。

インディアンたちの履くモカシン・シューズは、決して音を立てないので、こうした際には極めて役に立つ。しかし、先に気づかれたのは、親子の方であった。初陣のレイジングが功を急ぐあまり、弓を装着する音が、森林の中に小さく響いてしまったのである。背後から銃声がし、鍛え抜かれた父の肉体が息子をかばうように覆いかぶさった。

その刹那レイジングは、獣と化した。

白人たちの銃弾も何のその、その全てを間一髪でかわし、頭脳や心ではなく、体内の一つ一つの細胞が瞬間的に反応した。四半時の後、9人の白人たちの頭皮は剥ぎ取られ、レイジングは咆哮した。ただ、時既に遅く、額を撃ち抜かれた父のヒュージは息絶えていた。全身血塗れのレイジングの号泣は、いつまでも森の中に続いた。