腸管は人体最大の免疫器官

私は、健康長寿の重要な条件として、まず第一に免疫力を高めておくことを挙げましたが、もう一つ挙げるとすれば、腸内環境を整えておくことです。

腸内環境を整えておくことが、なぜそれほど大切なのかと思われる方もおられるかもしれませんが、腸管は食物を消化・吸収する器官であると同時に、巨大な免疫器官でもあるからです。

腸は胃に続く部分から肛門までつながっていて、多数の消化腺が開口し、消化と吸収を行なっている器官です。

ヒトでは全長約9mあり、小腸と大腸に分かれ、前者には、胃の幽門に続く「十二指腸」、それに続く約2.5mの「空腸」、大腸へ接続する約3.5mの「回腸」が属し、後者には「盲腸」「結腸」「直腸」が属しています。

腸は驚くほど精密にできていて、24時間絶え間なくはたらき、私たちの生命を支えています。

そのはたらきは次のように多岐にわたります。

① 消化……食べ物の消化と腸内細菌による分解を行う。
② 吸収……分解された栄養素や水分を吸収する。
③ 排泄……ぜんどう運動により不要な老廃物と毒素を便として排泄する。
④ 免疫…… 腸管に免疫細胞が集中していて、常に病原菌やウィルスなどの有害物質から守っている。

このほか解毒作用などもありますが、注目すべきは、腸管には④のように免疫機能があることです。普通、腸といえば消化・吸収・排泄するところというイメージが強いと思いますが、じつは、免疫について重要なはたらきをしていることが明らかになってきたのです。

腸壁にはパイエル板(10〜40個のリンパ小節が集合した組織)のような免疫細胞が集中していて、ここで、外敵をすばやく識別して排除します。

腸管は腸壁から侵入する有害なものから体を守る、いうなれば“ガードマン”のような頼もしい存在なのです。

暴飲暴食や脂肪の多い食事、強いストレス、睡眠不足、冷えなどは腸に負担をかけ、腸を疲労させてしまいます。腸が疲労すると免疫力が落ちて発がん性が高まったり、腸管で炎症が起きやすくなったりしますので、気をつけなければなりません。

身体的・精神的ストレスにさらされている人は、腸内細菌叢が変化し、いわゆる悪玉菌が増加し、善玉菌が減少することが知られていますが、最近の研究で、ストレスによって副腎皮質ホルモンが分泌され、自律神経系が活発になり、免疫力が低下することがわかってきました。

たとえば、宇宙飛行士の腸内細菌叢は、宇宙に飛び出す少し前から変化し始め、飛行中には善玉菌が減少し、悪玉菌が増加する傾向があるそうです。面白いですね。

事実、ストレスが腸内細菌叢のバランスに影響を与えると、腸内の悪玉菌が優位になり、免疫力が低下して病気にかかりやすくなることや、ストレスが長期化すれば、記憶を司る海馬での神経細胞のアポトーシス(自滅)が誘導され、記憶障害にもつながることもわかっています。

昔から「断腸の思い」とか「腸(はらわた)が煮えくり返る」「腹に据えかねる」「腹が立つ」「腹の虫がおさまらない」といったような、腸や腹の文字を使って感情や気分を表現する言葉がたくさんありますが、おそらく昔の人も腸の重要性を知っていたのでしょう。

※本記事は、2021年2月刊行の書籍『人生100年時代健康長寿の新習慣』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。