ある年、アラパホ族の土地では天候不良のために不作が続き、赤子に飲ませる乳の出ない母親が続出した。族長である「静かな蒼い男」、クワイエット・ブルーは未曽有の飢饉にどう対処するべきか、悩みに悩んでいた。

そんなある嵐の夜、人知れず彼の住居を訪れた者があった。そう、ビッグ・コレクターである。

彼女は言った。

「族長様、孤児の私を、今まで育てて下さったこと、本当に感謝しています。ところで今、皆は食べる物がなく苦しんでいると思います。あくまで私の見るところなのですが、この雲や風の流れ、気温水温を感じれば、今年の凶作は予想できました。そして、なぜかはわかりませんが、太陽の神様は私たちを見守ってくれていることを痛感するのです」

「どういうことなんだい、ビッグ・コレクター?」

「こうした天候の際は、作物が採れない代わりに、川が豊かになるのです。9年前に不作の年があったことを覚えていらっしゃいますか」

「ああ、覚えているとも。あの時は、木の皮を煎じ、草や土を食べ、本当に大変だったねえ……」

「族長様、あの時私は、何か食べられる物はないかと、雨の中、川に行ってみたのです。そこで、流されていく鮭の大群を確かに見ました。ですから明朝、騙されたと思って、籠や釣竿を持って、部族皆で川に行ってみませんか」

族長のクワイエット・ブルーは半信半疑ではあったが、藁にも縋る思いで、渋る皆を連れ、川へと出掛けた。

良く晴れた朝日に川面はきらきらと光っていた。川に近づくにつれ、皆は歓喜の声を上げた。朝日の反射と思えていた光は、川を埋め尽くす鮭の鱗であった。皆は嬉々として鮭を捌き、焼き、燻製にし、蒸し、久方振りの満腹を楽しんだ。その日を境に、ビッグ・コレクターの部族内の地位が上がったことは言うまでもない。

族長から彼女が任されたのは、部族の食糧調達全般であった。隣接する部族と交渉を重ね、食べ物を備蓄した。さらに、トウガラシや瓜、インゲンマメやカボチャの栽培にも着手した。

そして、持ち前の観察力と洞察力を活かし、後世ペミカンと呼ばれる優れた保存食品を作り上げた。獣肉を薄く切り天日干しにし、それを粉砕する。それに、加熱して溶かした獣脂と、ドライフルーツを混ぜ、袋に入れ密封すると、少なくとも5年は持ったという。

※本記事は、2021年6月刊行の書籍『ザ・ラスト・リゾート』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。