五月二十三日

「相手の弁護士から『百万円であれば一括で払う』との回答が来ましたが、どうしますか?」

「百五十万円にはできませんか?」

「百五十万円ならば和解できるのですか?」

「はい」

「もし、『百五十万円なら一括ではなく、分割で』と回答があったら、それでもよろしいで

すか?」

「五十万円の三回払いなら」

「分かりました、相手の弁護士に連絡してみます」

「相手の弁護士から『総額百二十万円で四十万円の三回払いなら』との回答がありました」

「せめて百三十万円にできませんか」

「『百二十万円より上ならもう訴訟でかまわない』とのことです」

「先生はどう思いますか?」

「訴訟にすると費用も時間もかかりますので、西川さんがその金額でもよければ……」

「今すぐに決めなければならないですか?」

「いえ、よく考えてからでだいじょうぶです」

「分かりました」

六月五日

「弁護士の男衾と申しますが、高萩先生はいらっしゃいますでしょうか」

「お待ちください」

気持ちが軽い。

「高萩です」

「先日の件ですが、『総額百二十万円で四十万円の三回払い』の条件で和解に応じます」

「そうですか」

「それでは、こちらで和解契約書の案を作成してファックスでお送りしますのでご確認ください」

「分かりました」

六月十日

「弁護士の男衾と申しますが、高萩先生はいらっしゃいますでしょうか」

「お待ちください」

胃が痛い。

「高萩です」

「先日の件ですが、申しわけないのですが、分割では和解できないと意見を変えてしまいまして……」

「分割での支払いに応じると言ったじゃないですか」

「当初は応じるつもりだったのですが、昨日になって『やっぱり分割では応じたくない』と連絡がありまして……」

「こちらは一括では無理ですから、先生が自分の依頼者を説得してください」

「そちらも当初は一括で百を払う予定だったのですよね」

「百なら親族から借りられましたが、百二十だと無理です」

「では、一回目の支払いを百にして、残りの二十を二回に分けて払うというのはどうですか?」

「無理ですね」

――確認もしないで――

「四十の三回の条件以外はもうだめですか?」

「はい、訴訟にしていただいてもけっこうです」

「分かりました」

「相手は『四十万円の三回払い』の条件以外はだめとのことです」

「先生はどちらの味方なのですか?」

「相手に和解を強制することはできないです。どうしますか、訴訟にしますか?」

「先生はどう思いますか?」

「訴訟にして判決が出ても、相手が任意に払わなければ強制執行をするしかないのですが、それだけの預貯金があればいいのですが、あるか分からないですし、給料の差し押さえは原則として四分の一の金額までですので、結局は数か月かかることになる可能性が高いです」

「分かりました。もう少し考えます」

六月十六日

双方の当事者の意向をふまえて「方法を問わず二度と接触はしない」「本件については第三者に漏洩しない」などの条項を入れた和解が成立した。