食事もリハビリ

入院当初から左手で箸を使って食事をすることができていたので、右手を食事中に動かすことがなかった。

ある時、作業療法士が来られて、

「左手で上手に食事できるのはよいのですが、右手のリハビリになりませんね。この箸を使っておかず一品でよいので右手で食事をしましょう」

そう言って、リハビリ用のバネ箸を渡された。

バネ箸(右手用)

「はい、分かりました」

バネ箸を右手で握ってみる。普通の箸に比べたら箸で食べ物を掴む動作はしやすいが、果たして上手く食べられるか?

次の食事から普通の箸とバネ箸の両方が用意された。おかずを見て一番トライしやすいものから右手で食べてみた。何とか食べられるが圧倒的にスピードが遅い。食べ物を掴みそこなうこともしばしば。

それでも毎食一品を選び、右手でバネ箸を握り挑む。食事の度に、どの料理なら右手で食べやすいか、を意識して食べる。

「右手で食べていますか?」

と、療法士が時々、食事の様子を見に来られる。

「はい、何とか食べています。でも前より食事に時間がかかってスタッフに迷惑をかけています」

「そこは気にされずに」

と言ってくださった。しかし、気になる。

毎回の食事の際、まず右手で一品完食し、左手で普通の箸を持ち急いで他のおかずやご飯を食べる。食事は楽しみでもあるがリハビリが加わり常に焦ってしまった。

食後は薬も飲まなければならない。入院当初、スタッフが袋から薬を取り出し、私が飲みやすいように用意してくださっていたが、この頃は左利き用のハサミで薬袋を切り、自分で薬も飲んでいた。

私は、食事ホールに最後まで残ることが多くなった。すべてがリハビリだ。右手の機能回復のために提案してもらったので、頑張って取り組んだ。

食べこぼすこともあったが、不格好でもいい。今の努力が回復につながると信じ、バネ箸を握った。

サッカーボール

右足の大きな筋肉の動きは、日増しによくなっていった。

だから、歩行量も上げることができ、自主練習で廊下を歩いたりした。だが、足首から先の動きは、手と同じく小刻みに揺れる感じが続いた。歩き始めや、何気ない一歩を踏み出す時に、右足のブレが出ていた。

ある日の足のリハビリで、サッカーボールが登場した。

「このサッカーボールをこうやって右足で左右に転がしてみてください」

と、療法士が実演しながら言われた。立位は左足だけだと不安定なので壁際で、左手で壁を触り、バランスを取るようにもアドバイスいただいた。

私がバランスを崩した時に備え、療法士は側で見守ってくれている。

「分かりました」

私は簡単だと思っていたが、10回もできず、サッカーボールは右足から離れ、転がっていった。

「あ、すみません」

「いいですよ、もう一度やってください」