しかし、そこからなにかが変わったわけではなかった。基本的な病院経営の方針がそのままだったから、入ってくる金額も出ていく金額もそれほど変化するはずがない。

当然、借入資金の返済や利息の支払いはなくなったが、ファンドの所有となった病院の賃貸料が必要となる。

その結果、毎年の赤字計上が継続し、その累積はファンドから得た病院の運営資金を確実に侵食し続けていた。

「ここから私にできることはなんだ? なにをしなければならない?」

柏原は重いため息をつき、目頭を押さえながら考えた。もちろん目標は、病院が独自で採算を上げられる仕組みを動かすことだ。そう考えて再度資料に目を落とすと、その内容はなんとも杜撰なものだと感じる。

たしかに施設ごとの収支は出ているがはっきり分かるのはその単位まで。当然ながら部署・部門ごとにどのような収支になっているのかは漠然としたままだ。

つまりハッキリとどこに赤字の要因があるのかが分かりにくい。それは現状の院内の組織にも問題があった。手元にある院内組織図も昔ながらのただ形を整えるためだけのようにみえる。まずはそこからの整理か。いやその前に部門ごとに収支を把握してもらおう。

各部門のメンバーたちにそこに関わってもらう。それぞれの仕事の成果が収支という形で現れるようになれば、それだけでも現場は危機感を持ってくれるかもしれない。

そうだ、ここには危機感が足りない。毎年続く赤字決算を公表しているにもかかわらず、それをみているはずの職員一人ひとりはどこか他人事、自分たちの仕事の結果だとは考えていない。

危機感と目の前の目標があればこそ、病院の隅々まで自分たちはどう動くべきかと考えるようになるだろう。そうして各部門が自己改革を始めれば、病院はもっとよくなる……。

そこで柏原は今日も顔を合わせた病院の首脳陣たちと、彼らに囲まれるように立っていた高井の姿を思い浮かべてみた。柏原自身すでに還暦を越えており、副院長たちをみても、決して若いといえる歳ではない。

恐らく、そんな自分たちが若い職員たちに向けていくら病院改革を叫んでみても、きっと彼らには響かないだろう。

「誰もが納得できる具体的な目標が必要だ」

――以前から考えていたことを再度確認したようにひとりうなずくと、柏原はカップに残ったコーヒーを飲み干した。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『赤字病院 V字回復の軌跡』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。