2章 これまでの重大事故(フェール)

フェール・セーフの基本的考え方は、災害は起こるものであるとして取り組み、それに対する安全策を常にペアとして準備しておくというものであった。この原則から今回の東日本大震災を見る。

(1)事故・災害は起こるものであるとして備えること

東日本大震災の発生は、関東大震災から88年、阪神大震災から16年になる。本当に災害は忘れる頃にやって来た。東京電力では波高10m以上の津波は1万年に1回も起こらないと言っていたが、実際には起きてしまった。

これらに対する備えは、国、地方、企業、組織、近所、家庭、個人のレベルで取り組み、訓練をしておく必要を痛感する。今回の大地震に伴う複合災害から、多くの教訓を得、対策ハンドブックが多く生まれている。これを学習し実行体得しなければならない。

(2)組織と責任体制の問題

歴史が教えるように、事業者は利潤経営の立場で発想行動する。しかし安全問題は必ず民衆、生活者の立場で対処しなければならない、と学んだ。今回原発事故の反省から原子力規制委員会を2012年9月に新設し、原発を推進する経済産業省から、規制を担う原子力安全・保安院を切り離し、環境省の外局として新たに発足した。内閣府の原子力安全委員会などの機能も集約している。

国家行政組織法第3条に基づく「三条委員会」で政治等外部の影響を受けないように予算や人事権など高い独立性を保つはずで、原爆再稼動の前提となる安全審査のほか、福島第一原発の廃炉の監視、事故時の被曝や核物質防護対策の検討などを業務としている。しかし外部からは、発言の妥当性、行動の不十分性が既に多くなされている。我々も注視し続けねばならない。

(3)冗長性の不備

安全性を保つために、単独、一重の機能だけでなく、併列、多重、多層の機能配置を設けるのは今や常識である。

しかし今回は原発向けの送電線の多重化はまず地震で失われ、バックアップで用意したディーゼル発電機は津波により原発の緊急停止ができず、さらにバッテリーも短時間しか持たず安全を確保できなかった。すなわち送電塔、ディーゼル発電機、バッテリーの3層の原子炉冷却設備はいずれも機能を失い大事故になった。

まず鉄塔は多重化されていたが、地震、津波のような環境では独立性が保てず、冗長性の意義も失った。

またディーゼル発電機は冗長配置されていたが高さが足りず、いずれも海水に漬かり機能不全となった。また最後に頼りにするバッテリーは余裕不足で期待時間作動せず消耗した。

いずれも、冗長性、多層性を維持できる条件配置が不備であった。

(4)安全配慮からの余裕

原発の設置場所を津波が襲う波高は6.3mとしていた由、実際には13mの津波にあっている。またディーゼル発電機の設置場所も、その場で見て1.2mの高さという。2~3mの高さにすれば助かったのか。

またバッテリーも7~8時間持つ予定というが、短時間で消耗し、目的が達成できなかった。余裕不足と言えよう。原発の冷却系のように、その事故が広域、長期間に及ぶものの特別安全処置を常に安全技術の進歩を導入して改善強化する必要があった。

※本記事は、2018年11月刊行の書籍『「フェール・セーフ」に学ぶ災害対策論』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。