銀行強盗

四十年前、県立那覇病院で小児科医として働いていた頃、浦添市のバイパス沿いのマンションから通勤していた。

当時、那覇は、道路整備が追いつかず、至る所で車が渋滞していた。

そんな中、私はSR400という四〇〇㏄の単車で通勤していた。渋滞の中を車で通勤すると四十分以上かかるが単車だと十数分でたどり着けたからだ。

理由はほめられたことではないが、車のわきを次々追い越して走ったからだ。だいたい二〇〇〜三〇〇台は追い越したと思う。

その頃SR400はバイク通にはあこがれの単車でもあった。気品のあるレトロな雰囲気を醸し出す単気筒空冷エンジンでキックによる始動が魅力だった。

ただ、難点は、そのキックにあった。キックしてもエンジンがなかなかかからず、三、四回キックしてやっとかかるありさまだった。

そんな中、那覇市で猟銃を使った銀行強盗事件が発生した。犯人は現金を摑み取るや、盗んだ単車で逃走、途中で単車を乗り捨てて行方をくらました事件である。

犯行に使われた単車が何とSR400だった。どうしてエンジンがかかりにくく、車体の重い中型車を逃走用に選んだのか不思議だった。知らずに使ったら始動に手間取り逮捕される可能性がある。やはり乗り慣れた者の仕業なのだろうかといろいろ考えた。

当時SR400は沖縄に数台しかなく、その中の一台が私の愛車だった。警察はこの単車を乗りこなす人はそう多くないと見て同車種の持ち主にも捜査対象を広げたようだった。

しかも犯人はわが家の近郊にこの単車を乗り捨てたということもあって、ある日、刑事がわが家を訪問し、妻にいろいろ聞いたらしい。

刑事は犯行時のモニター写真を取り出し、ヘルメットに覆面姿の犯人の写真を見せて「心当たりはございませんか」と聞いた。妻はうっかり「そういえば似ていますね」と答えてしまった。それから二、三週間たち、警察から呼び出し状が届いた。

「あなたは八月十五日午前五時頃、安謝交差点方面で仲間数十人と暴走行為をしているところを、取締中の警察官に目撃されています。すぐ那覇警察署まで出頭しなさい」

という文言であった。驚いて警察に電話し、当日は那覇から四〇〇㎞離れた南大東島に乳幼児健診に行っていて不在だった旨を抗議口調で伝えたところ、裏が取れたのか、それ以来警察からの問い合わせはない。

犯人がその後どうなったか詳細は不明である。

※本記事は、2020年3月刊行の書籍『爆走小児科医の人生雑記帳』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。