廃車復活

半年前、車検業のAさんがマイカー車検の車を引き取るため、わが家を訪れた。

車庫に入ったAさんは、奥にあった古いバイクを見て立ちすくんだ。

「コレ、ヤマハのDTじゃないですか! 本物ですよね!」とつぶやき、「触っていいですか」と言いつつにじり寄った。

このバイクは四十五年前、インドからヨーロッパまで冒険旅行で駆け抜けたDT250というバイクである。自分の人生の転機となったバイクだったから雨風にさらさず保管していた。Aさんは車体をなでさすりながら、声を震わせ独り言のようにつぶやいた。

「DT250の実物を見るのは初めてです! 幻の名車です!」

「排気量二五〇㏄……キック式2サイクルエンジン……ブレーキも今のディスクと違ってドラム式……、排気管も上についていますね。バッテリーも6ボルトと小さい……、方向指示器もスイッチも小っちゃいですね!」

車検の車をあずかり帰る際、遠慮がちにAさんは口を開いた。

「このバイクのエンジン音をぜひ聞きたいのですが、タダでいいですから私に修理させてもらえませんか……」

かくして、朽ち錆びたDT250はAさんにあずけられた。

四十五年前、インドから西ヨーロッパまで砂漠や荒野や雪原の中を、この単車で走り抜けた。

西ヨーロッパにたどりついた時には走行距離は二万㎞を超え、車体の傷みも激しかった。エンジンが焼き付き突然ストップした。

イタリア・フランス国境沿いにある高速道路のトンネル内で突然エンストを起こし、八〇〇mもの長くて暗いトンネルを冷や汗かきながら出口を目指し押し駆けした。

前輪タイヤはペラペラに摩耗し、リヤタイヤはひび割れし、バーストの危険をはらんでいた。ハンドルはゆがみ、サイドスタンドは折れ、バッテリーは充電不良でホーンも鳴らない。

時速三〇㎞を超すと、エンストを起こすのでトロトロ走り、オランダではサイクリングを楽しむ若者達に追い抜かれ、ドイツではアウトバーンを時速三〇㎞で走って対面のパトカーから大目玉をくらった。

そういう難行苦行を共にした単車だっただけに愛着がつのり日本に持ち帰った。数か月後、単車を持ち帰ったAさんから電話が入った。「仕事の合間をみてエンジンをバラして修理を行いました。パワフルなエンジン音に感動しています」と嬉しげだった。

早速訪ねてみると、きれいに磨かれた車体のわきでAさんが待ち受けていた。生まれ変わった車体にまたがり、キックすると、ドッドッと腹の底から突き上げてくる甲高いエンジン音が鳴り響き車体を震わせた。

あのボロボロの単車が新車同然のパワーを取り戻せたことに正直驚いた。バイクのナンバープレートが国際ナンバーとなっているため、公道を走るには再登録が必要。

Aさんは、とにもかくにも公道を走らせたく、登録先の北海道北見市の陸運事務所に連絡して、再登録の手続きを進めている。クラシックバイク愛好家の執念で廃車同然のバイクは四十五年ぶりに息を吹き返した。