園原資料館が消える!?

園原資料館建設はすでに年度事業と議決されており、建設することは間違いなかった。

それをひっくり返すには理由が必要で、それがハネダイツキの「阿智村全村博物館構想」だった。園原資料館単独では先行している章設計に追いつかない。章設計を外すためには、より大きな目標を設定する必要がある。

そのためにハネダイツキをT道NPO法人の理事長に就けて、園原資料館建設を博物館の一部として位置づけたのだ。その構想のすべてはハネダイツキの発案だとされた。

クマダツネオとハネダイツキは、資料館から便所を分離し、別棟の公衆便所とした。これは秘密裏に進められた。

ある日、S設計のサトウキヨシ社長から電話が入る。

「園原の公衆便所はうちの下請けでやれば特命だとヤマガミ課長が言っている。入札だと順番的にM設計になるかもしれん」

公共事業が入札で行われるのは、為政者と業者の癒着を防ぎ、健全な価格競争を促すため。こんな話ができるほど、オカダカツミとS設計は袖の下でつながっていた。

「まだこんなバカなことをしているのか。いい加減にしないとすべて話すぞ」

サトウ社長を一喝したが、予定額まで口にしたのに驚いた。

「180万あるが150万で入れる。話し合いはしないということで、そちらはなかった話にしてくれないか」

それを言うのが精一杯であったようだ。要望を聞いてしまえば談合となる。だから、章設計が120万円で落札したが、S設計に落札させようという目論見が外れたオカダ村長は憮然とし、ツネオの執拗な章設計外しがまた始まる。

H建設が不落にする

その日は高校の同級会を兼ねての親睦ゴルフであった。

土曜日であるが、なんとなく予感があって、携帯電話をポケットに入れてプレーをしていた。下條カントリーの5番ホールにさしかかったとき、オカダ村長から電話が入った。無視したが、2度目のコールである。仕方なしに受ける。

「おい、H建設がどうしてもできんと言っている。言ったとおり設計変更せよ」

前日の金曜日に、H建設のヒラタ社長がオカダ村長を訪ね、予算が合わないから不落(入札価格が落札の上限である予定価格を上回ること)にすると言ったそうだ。

入札前に村長と建設業者が、そんな話を堂々とするなど異常だが、阿智村では普通の情景である。ヤマダ会長が500万円を寄付したうえでの婿様(談合による落札業者)がH建設で、割に合わないとオカダ村長に直談判したようだ。

「ヤマダ会長との関係は皆さん知っていますよ。入札前日に変更すれば噂が立ちますよ」

そう注進差しあげた。そこまで言われれば仕方なし。そのまま忠告を受けたようだ。ただ、その代わりに、

「章設計を資料館の設計から外す!」

との大声が庁舎内に響き渡ったという。まだその頃はオカダ村政に反発する職員もいて、章設計を心配して事の次第を教えてくれたのだ。