ムラよりカイシャを優先すれば日本がもたない

健康保険や年金制度に典型的に見られるように、日本の制度は、『カイシャ(職域)』と『ムラ(地域)』という帰属集団をベースとして組み立てられている。

持ち家の自営業で、地域コミュニティの相互扶助の中で生きていれば、出費は少ない。だが自営業者が労働者となり、地域コミュニティが衰退すると、必要な出費は増加する。

「少子高齢化」あるいは人口減少の危機は、ムラ(=地方)の崩壊をもたらし、地方でも生活に必要な出費が増えるということを意味する。

それでも地元型の生活は、時間と土地・建物と多少の運転資金があれば、これからの社会においても一つのあり方として存在しうる。

一方、カイシャ(=都市)においては、古くはホワイトカラーとブルーカラーの格差があったが、1950年代半ばから、大企業と中小企業の「二重構造」が注目された。

1980年代を過ぎると、従来の大企業と中小企業の二重構造に加えて、正社員と非正規雇用の二重構造が注目され始めた。総務省の労働力調査によると2019年時点では非正規雇用者数は2165万人である。

これらの人々はどのような暮らし向きなのだろうか。

厚生労働省が2015年11月に公表した「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、全労働者に占める非正規労働者の割合は、ついに約40%に達し、なかでも、働き盛り世代である35歳~54歳の非正規労働者は年々増加している。

その月収は、20万円未満が80%弱を占め、10万円未満も36%余りに上る。社会保険制度の適用割合も雇用保険が約68%、健康保険約55%、厚生年金約52%、賞与支給約31%等という状況である。

男女を問わず、正規雇用から、労働条件が低く抑えられている非正規雇用への切り替えが進んでいる。

ただし、忘れてはならないのは、これらの変遷があるにもかかわらず、男女間の格差は並行して存在しており、シングルマザーの人生をより過酷なものにしていることである。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『ベーシックインカムから考える幸福のための安全保障』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。