しばらく話をしているとノックの音が、

「どうぞ」

私を見て、

「アッ!」

「優斗、今井社長。挨拶して」

「今井さん、長男で専務です」

「初めまして、優斗です。奥様……ですか。握手してもいいですか」

優斗さんが少し震えていたので、抱きしめた。

「優斗さん、よく頑張りましたね」

背中を擦りながら、

「大丈夫ですよ。きっと、お母様はあなたの後ろでいつも見守っていますよ。頑張りすぎないでね。肩の力を抜いて」

背中に回り擦りながら、

「力を抜いて、柔らかく、楽に、楽にね。あなたの優しさはお母様ゆずり、誠実さはお父様ゆずり、何も心配はいらない。ご両親はあなたを愛しています」

前に戻って両手でお顔を包んで、

「ご両親に感謝をわすれずにね」

優斗君は泣いていた。俊さん、山本さん、秘書も泣いていた。ノックの音、ドアが開いた。お嬢様だ。やはり

「アッ!」

固まった。

「彩香ちゃん、ここに来て」

優しく抱きしめた。少し震えている。

「彩香ちゃん、十年よく頑張りました。もう大丈夫よ。泣いていいんですよ。優しい、優しい彩香ちゃん。もう大丈夫」

彩香ちゃんは声を殺して泣いている。

「声を出して泣いていいのですよ」

人目もはばからず、大きな声で泣いている。私は抱いたまま背中を擦った。そして背中に回り後ろから抱いて、

「彩香ちゃん、寂しい時、悲しい時、辛い時、こうして後ろからお母様が抱いているよ。大丈夫、大丈夫って深呼吸をしてね」