人生の交差点

昔、一ノ倉沢で忘れられない遭難事故があった。ただの事故ではない。

クライマーの二人がザイルで宙吊りになったまま動かない姿で発見された。望遠鏡で見ると二人とも死んでいることが判明。遺体をこのままにしておくわけにはいかないので、山岳会代表の人と遺族との対策会議が行われた。

簡単には近づくことができない場所なので、銃でザイルを切断して遺体を収容することになった。細いザイルに弾が当たるのだろうか?  テレビの放送でも息が詰まるような時間が続いた。

榛名山の裾野にある相馬原自衛隊の射撃の名手が何人もかかって、何時間もかけて、1000発以上も発射して、やっと銃弾が当たりザイルを切断した。

もうあの事故を覚えている人も少ないだろう。ここ谷川岳に集まってきた人は、住まいもいろいろ、年齢もいろいろ、楽しみ方もいろいろだが、みんな山が好きということでは一つのようだ。

皆それぞれやりたいことをやればいい。人生はやりたいことやるためにあるのだから。あのザイルで遭難した二人もやりたいことをやったのだろう。

あのとき二人は20歳と23歳だったというから、もし生きていれば50歳と53歳になる。早死にしてしまう人は、やりたいことを少ししかやれずに死んでしまう、ということになるのだろうか。色とりどりのヘルメットの人たちが、今日も岩壁をザイルで登ってくる。

谷川岳1回目・山心が点火した頃(25歳)。

【唐松岳(長野・富山)自分に合った山歩き 1983年7月:期末テスト中のピストン登山

今年もまた夏休みが近くなってきた。

7月から8月までの夏休みには、ゆっくりと北アルプスに行く予定だ。だが、その前に慌ただしくても1泊でもいいから北アルプスの風景が見たかった。

北アルプス病に罹かかり始めた初心者の私でも比較的安全そうなところは、八方尾根から入る唐松岳のようだ。私は東京都で公立中学校の教員をしているが、年間20日の休暇がある。

病気のとき以外に取りやすいのは、中間テスト、期末テストのとき。期末テストは1日3教科3日間で9教科、自分の担当の教科のテストがない日には、休みやすい。

一学期の期末テストに入った際、私は休暇を取って白馬村の八方池山荘から唐松山荘1泊のピストン登山をしようと思った。大糸線の白馬駅から入って、ゴンドラを乗り継いで八方池山荘へ。

1時間半ほど登れば八方池だ。ここからは白馬三山が見られて、高山植物にも出会え、初心者には絶好なトレッキングコースだという資料を掴つかんだ。