雅代の通うスーパーマーケットは、工場と違い昼休みも客があり、従業員に一斉に昼休みを与えるというわけにはいかない。従業員たちは割り振りに従い時間をずらせて昼休みを取った。

雅代は主婦だというパート仲間で五十歳過ぎの立花澄子という小柄で小太りの女と知り合いになり昼休みの時間が合えば休憩室でよく話をした。

「ちょっと聞いとくんなはれ」

そんな言葉を前置きにして聞いても詰まらない自分の家庭の愚痴話や昨日見たテレビ番組の話をよく喋った。立花の口振りから家ではもう夫や子供に話し相手にはなって貰えない様子が滲んでいた。

そんな立花が客とレジでトラブルがあったときや上司からきつく注意を受けたときには、決まって雅代の所に寄って来てはパートの身では何を言われても耐えるしかないと悔しそうな顔でよくそんなことを零した。

「わてらみたいに歳を取ってくると、早よ時間が経たへんかいなあと思うような単純作業の臨時の工員かこんなレジ打ちの仕事ぐらいしかあらへん。まあ、生活費の足しや時間潰しには丁度ええけどね」

自嘲気味にそう言っては寂しい笑顔を作った。確かに就職は若いうちが有利で、年齢、性別を問うてはいけないはずのハローワークの求人も、四十、五十と歳が増してくると正規は難しく、パートタイムや臨時雇いの口しか無いのは事実だった。

「柴原さんは独身でまだ若いやないの。年金や何やかやと将来のことを考えると、こんな所で燻ってへん方がええんとちゃうのん?」

別れるのは寂しいけどとつけ加えられ話はいつもこんな調子で終った。雅代は立花の話を訊く度に愚痴を言うしか捌け口の無いパートタイマーの行く末を見るようで少し焦りを覚えるのだった。

さらに、何かと便宜を図ってくれていた主任の吉本も雅代に子供がいるとわかると途端に愛想が悪くなった。食事の誘いどころか遠慮なく意地悪をするようにもなり、雅代は何となく顔を合わせるのが嫌になっていた。

小さな海辺の町で生まれ育ち、スナック「漁火」で働く美紀には小学生の頃の忘れられない思い出があった――。つましくも明るく暮らす人々の交流と人生の葛藤を描いた物語。
※本記事は、2020年11月刊行の書籍『浜椿の咲く町』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。