また、哀しいことに新聞記者時代の悪弊が抜け切れず、朝の出勤時間は守らないし、机の上には足を上げる、昼寝はするし、夜はビール片手にエンドレスで会社に居残り、電車で帰れるのにもかかわらず、タクシーチケットを使って帰宅する。

家までのタクシー代の一回の料金が一万五千円、ひと月二十日間で実に三十万円を費消していた。

部長の富山は、新聞記者の常識が、社会の非常識であることに気がついていなかった。達郎は、この新聞記者という人種には嫌な思い出があった。

入社三年目から五年目にかけて所属していた宣伝部時代に、達郎が担当していた商品のテレビCMに起用したタレントが大麻不法所持事件を起こした。

この時、ある新聞社の社会部の記者から、夜中の一時に電話でたたき起こされた。大麻を吸うようなタレントをCMに使っていた企業としての責任をどう考えているのか、との質問だった。

この日夜、たまたま、宣伝部長や課長が捕まらず、仕方なく達郎の家にかけてきたのである。この時、達郎は新聞記者というのは、本当に常識のない連中だと思った。

何も初めから大麻をやるとわかっていたら、そんなタレントをCMに起用したりするわけがないだろう。起用したタレントが、たまたま起こしてしまったのだから、責任はと言われても答えようがなかった。

それも、非常識な深夜帯の時間に電話をかけて来なくてもよいだろう。どうしても、コメントを朝刊に間に合わせたいのだろうが、夕刊になったって、世の中が引っ繰り返るほど困ることでもあるまいし……達郎は新聞記者に対して、呆れ果てた、そのような嫌な思い出があった。

※本記事は、2021年5月刊行の書籍『店長はどこだ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。