破局へのカウントダウン

五月八日(火)

孝雄は夜十二時を回っても帰らず、帰宅したのは明け方の四時半前だった。

(出張は昨日までのはずやのに、また日付が変わってから帰ってきた……)

気がかりなのは、浮気のことよりも、お義母さんの一周忌……

(でも、こんな状況じゃ、話すどころではないし……)と、心配していると、ひと眠りして起きてきた孝雄が、ようやく一周忌のことを口にした。

「明日一人で行ってくる」(え……?)娘たちも、その旨を伝えると「なんで?」って。そりゃそうだよね。お義母さんといつも一緒にいたの、誰だと思ってるの?

(そういうところが……この人は本当にね! 人の気持ちを全然わかろうとしない……)

そうして翌日、午前九時半に、孝雄は一人でお義母さんの一周忌の法要に出かけていった。

孝雄の出張後の朝帰りは、その後も続いた。そして時には、前日に彼女と会っているのか、出張に出かける当日の朝に帰ってくることも。結果としてそうなった前々日の晩には、寝室の前を通りがかった時に、偶然、明らかに仕事の話し方ではない、楽しそうな口調で誰かと話していて、最後に、「バイバイ」と言って電話を切る声が聞こえてきたこともあった。

あるいは、必ずしも出張とは限らず、〈今日は仕事の交渉日なので、帰りは明日になります〉といったメールが送られてきたこともあった。私が返信しないのをいいことに、適当に何かしら連絡すればいいくらいに思っているのかもしれないが……交渉事で、なんで泊まりになるのかと、普通は怪しまれるとは考えないのだろうか……。

食事のほうは、あの、おにぎりをつくれと怒鳴られた日からずっと毎朝、おにぎりを用意している。にもかかわらず、持っていかない日がたびたび。晩御飯のスタンバイもし続けているが、まるでリクエストがないという、そんな生活が、義母の一周忌が終わってからも一か月近く続いていた。