その幹部は不思議そうな顔をしていたが、柏原の頭には強いイメージが生まれた。高井はきっとこの病院再建の鍵になる。いまの上山総合病院の始まり、大谷元院長が君臨していたころからを知っており、それからの経営に不信感を持っている。

これはうってつけだ。彼ならきっと私の考えに共感してくれる。改革の旗手として、第一歩を踏み出してくれるはずだ。柏原はそう考えた。

翌朝、予定通り高井が上司に連れられて理事長室にやってきた。その表情には戸惑いと不安がみられたが、病院の立て直しを手伝って欲しいと伝えたとき、柏原には風二の目に一瞬火が灯ったようにみえた。

こうして風二と柏原のふたりが出会い、病院改革の最初の一歩が踏み出されることとなったのだ。

象徴的な問題

「高井はどこまでやってくれるだろう」

自宅の書斎で、柏原はこれまで何度も検討してきた病院の経営資料を眺めながら、そう思った。そもそもなぜ高井なのか。机の横に積まれた各種の資料からみつけた名前が始まりだった。

最初、目にとまったのは、病院の経営に何人もの先任者がメスを入れた際の、外部コンサルタントとのやりとり担当者としてだった。その過程で、この病院の経営に関わった者がなぜ一様に「改革」を考えたのかは分かったはず。

しかも資料には、彼の手で的確にまとめられた、コンサルタントたちへの情報提供のペーパーが、何枚も綴じられていた。残念なことに、実際の改革提案には必ずしも採用されてはいなかったが……。

柏原の頭には、風二と会う前からこうした考えがあった。それもあって、第一に彼を呼んだのだった。

実際に会ってみた風二の印象も悪くなかった。病院改革について話したときの表情は、明らかに隣にいた大村とは違っており、戸惑いながらもどこか熱のこもった、期待するような目で資料を受け取った。

少なからず、病院の経営に対して思うことがあったのだ。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『赤字病院 V字回復の軌跡』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。