序章

契約関係は対等の個人同士を前提にしているのに対して、信任関係とは、対等性をまったく欠いた人間関係である。

信任関係の前提となる忠実義務とは、ある人間が自分の利益ではなく、他者の幸福のために忠実に働くということである。現代日本の政治は社会に対して忠実義務を果たしているだろうか。最近は、子どもの貧困が取りざたされている。私は、日本における貧困の緩和のためには、

①子ども・子育て家庭、高齢者、障害者等のための現物給付であるベーシックサービス(BS)、

②すべての個人に無条件に給付されるベーシックインカム(BI)、

③ハウジングファースト(HF)の考え方に基づく住宅政策、への転換

が必要であると考えている。ただし、私としては、BIには「ベーシックインカム」の意味だけではなく、「ブースト・インカム」の意味もあると考えてほしい。

「ブースト・インカム」とは、それだけでは十分暮らしていけなくても、現行の社会保障の水準の維持を前提として市民の生活を底上げし、生きづらさを和らげるための仕組みである。

これらは、正規の被雇用者から非正規の被雇用者へ、高齢者から勤労世代へ、東京から地方へ、男性から女性へ、現在から未来へと所得を再配分する意味も含まれている。

どちらの意味であっても、BIは少子化対策や地球温暖化への対策にも意義がある。加えて、これらの延長線上で、地方自治体による施策との関連において、分散型の再生可能エネルギーへのエネルギーシフトや、脳の視床下部で合成されて下垂体後葉から分泌され、愛着の安定化に必要なホルモンであるオキシトシンが支える環境づくりについては、特に力を入れて検討したい。

また、介護、保育、教育、医療等の現物給付、まちづくり施策や、「人口減少」「少子高齢化」へ対応し、人口の定常化を目指す施策等についても、できる限りカバーできるよう心がけた。

地球温暖化の問題は、本当はフローとしての温室効果ガスの排出量が減るだけでは不十分である。

低炭素、あるいは近年掲げられている脱炭素であっても、既にストックとなっている大気中の温暖化ガスの上に、さらなる排出を続けることは、気温や海面の上昇幅、気候変動による熱波や超大型台風の発生頻度、さらには、その影響である干ばつ、洪水、森林火災、感染症流行のリスク等を複利で積み立てているようなものだ。