妻とお見合いをして結婚が決まった時、娘が誕生した時、娘が大学に合格した時、そんな大事な時には特によく聴いたものであった。嬉しい気持ちをさらに倍加してくれる、私にとっては大切なかけがえのない宝物である。

第2楽章はアダージョ。ゆったりと伸びやかな美しい音楽である。日本の田園風景を見ているようである。低い山々を背に棚田が広がり、その脇に一軒家が建っている。

庭先には季節の花が咲き乱れ、素朴ながらも幸せな家族の姿がある。そんな情景が目に浮かび、心洗われ、穏やかな気持ちになるのである。

また、時として少年時代を過ごした横浜市郊外の景色が浮かんでくる。素朴な田舎の景色であったが、第二次世界大戦の爪痕がそこここに残っていた。裏山に防空壕が残る民家もいくつも残っていた。一本足の案山子が立っている田んぼに佇んでいる自分の姿が懐かしく思い出される。

そんなささやかな日本の原風景もすべて時の流れと共に失われてしまった。なんとも郷愁を誘う素晴らしい音楽である。第3楽章はプレストで、どこまでも明るい青空が広がる春の日のような雰囲気である。

人生に明るい希望が湧いてくる。明るい曲調でこの音楽を締めくくり、青春の日々を思い出させてくれるのである。

私の愛聴盤はフランスのレジ・パスキエ(ヴァイオリン)、ピエール・バルトロメー指揮リエージュ・フィルハーモニーである(オーヴィディス・バロア、V4796、オーヴィディス、フランスで録音、輸入盤)。

明るさと繊細さが光る名演奏である。