先頭をサドゥーと少女が、その後ろを弥生が歩く。最後に荷物を山ほど積んだロバをサドゥーの弟子3人が、1頭ずつ引き連れていく。黙々と山道を登っていく。1時間、2時間、3時間、4時間、だんだんと道幅は狭くなり、曲がりくねって、険しさは増すばかり。

さすがに疲れてきた・・・。体力には自信があった。高校までは陸上部で中距離、短距離でインターハイ出場で高校記録をも塗り替えた実績がある。スポーツ系大学から、スカウトが来たが、苦しい練習を続ける気はなかった。

高校3年、青春をすべて陸上に捧げたのだから、自分が好きな大学へいき、はじけたいと考えていたから。それにスポーツに限界を感じていた、いや、人間の肉体に限界を感じていた。どれほど鍛えようとも所詮は肉体、あっという間に老いてゆくのにそこに価値を感じられなくなっていたのだ・・・。

それでも肉体をあまえさせはしなかった。ジム通いで体力は維持していた・・・。が、しかし、ここヒマラヤでは通用しそうにない。

ここでは一切の常識が覆される。8歳にも満たない少女は千日行を終えたばかりという。いったい、3年あまりの月日を、どんなところで、どんな修行をしたというのか。代々、カルキ・ヨーギニーを受け継ぐという・・・・。

彼ら(修行僧)はまだしも、先頭を行く8歳にも満たない少女は鼻歌を歌いスキップしたり、ところどころ、申し訳なさそうに咲いている花を見つけては匂いを嗅いだり、昆虫を見つけては、はしゃいでいる。

まるで、自分家の庭を散歩でもしているかのようで楽しそうだ。ありえない、体力に自信があったのに、ありえない光景を目の当たりにして、理解不能に陥ってしまった。

それに・・・。あの瞳に宿した銀河の渦・・・・・・。弥生は危うく、すべてを忘れ、その渦に吸い込まれそうになった・・・。

サドゥーが引き戻してくれなかったら、いや、そのまま消えてもいいと本気に思い始めていた。一体、なんなんだ、催眠術の一種か、得体の知れない妖しげな術を使う、夢でも見ているのか。もしかすると、夢の中にいるのか。

が、しかし、肩に食い込んでくる、リュックサックの重みと痛みが夢ではないことを告げていた。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『ヒマラヤ聖者の秘宝』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。