なるべく国民が無抵抗なかたちでの移行となれば、やはり、精子バンクの開設しかあるまい。実際問題、男が町から消えつつあるのだ。結婚どころか男に出会うチャンスなどないという現実がそこにあるのだった。

西暦二千六十年の時点で、少しずつ国内の知力体力共に優秀且つ健康な男たちの精子は、国の精子バンクに保存され始めた。この会議が開催された二千百十一年には、精子バンクには、十分な精子が備蓄されていた。

湯浅は、健康な種族保存のできる男子を増やすためには、女性側もこの先最低二百年は、選ばれたほんの一握りの優秀な女性を厳選し、先ずは、種男のプロデュースに徹するのが良いと提案した。

北海道出身の阿川くるみは、教科書問題について触れ、教科書は、あまり意識して作らず、今までのものに少し手を加えたもので良いと言った。科学に関しては、人間の男の数が何らかの影響で、地球上から姿を消しつつあり、その結果として現在の国家があるのだと、隠さず教えれば良い。

動物に関しても今までどおり、動物園でオスもメスもいる世界を見せる。本当に男が生まれないのだから仕方がない。嘘をついたり隠したりしなくてもいないものはいないのだ。ただ、歴史に関しては、彼女はしばらく考えてみたいと言い出した。

九州、鹿児島出身の皆川頼子は、女だけしかいない世界に近い状態に今でもあるのだから、人格形成うんぬんをあまり心配する必要はないと言った。

ただ心配なのは、あくまでも、男性不足は国家の危機としながらも、優秀な種男の育成をし、むやみに男でも女でも産みたい人に産ませるという方法は取らないのだということを、国民にどうやって説明していくかということ、その一点に尽きると主張。人権団体、宗教団体とどのように対処して行くのかも心配だと言った。

沖縄の石垣島から出席した金城理沙は、余計なことは一切口にせずあっさりと、

「このまま自然に任せたら間違いなく日本から男がいなくなり、男がいなくなるっていうことは人間が滅びるっていうことだって説明すりゃあいいんだよ。うだうだ言ってる暇はもうないんだから」

と言って、出席者全員を一瞬黙らせた。

※本記事は、2021年3月刊行の書籍『種男貸し出し中』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。