新たな国家設立

日本が女性国家として動くようになって二世紀半。スタート時点で懸念された矛盾事項は、どんなものだったんだろうか。

美紀は種男百五番に率直にその質問をぶつけてみることにした。種男百五番は、嬉々としてその話題に乗ってきた。種男百五番によると女性国家設立に向けて先ず挙げられた国家対策本部からの疑問点は、教育問題だった。

教科書作成の時点で、性の問題をどう教えていくか。動物園にはオスとメスが存在するのに、人間界には女しかいないという事実をどう伝えるか。人間の男の役割を精子だけの為として果たして良いものか。

第二の疑問点は、女同士のカップルが増え続けることによるマイナス部分は何なのか。どんな家庭形態が生じ、人間全体にどんな影響を与えるのか。子供たちの性格形成に偏りは生ずるのか。

第三の疑問点は、歴史問題である。男が半分存在していたという事実は抹消できない。男に関するデータ、書籍類をどう処理していくか。一般人からその情報を知る権利を取り上げてよいものか。

第四の疑問は、まだ男がわずかながらも、自然に存在している時点(西暦二千六十年)でどのような自然な形で国家を女性国家に移行して行くか、国民に納得させて行くかであった。

この四つの質問をひとつひとつ有識者たちを集め議論したのが西暦二千百十一年、三月一日であった。この有識学者グループは、男の学者、湯浅義孝以外のあとの六人は全て女の学者で構成されていた。

男の人口激減で男の人口は既に一万人を切り、そのうち十代はわずかに二百五十人という状態であった。何が起こったのかを研究するよりも、女だけでもやっていける国家に移行していく方が手っ取り早いということで、全体案は全員一致でまとまった。

先ず始めに湯浅が提案したのは、男の持つ遺伝子の改良と向上であった。このまま弱い遺伝子を持った男ばかりが生まれていけば、男が一人もいない世界ができてもおかしくないという。

無謀な試みだとしても、優良な遺伝子を持つ男と女から生まれる男を一時的に“種男”としてこの世に存在させ、その男の精子から優良な卵子を持つ女たちに優良な男子を産ませるしかないと力説した。二~三世紀この試みをしたあと、徐々に男と女の数を半々にする方法しか日本に残された道は残っていないのだと顔を真っ赤にして言った。