タクシーを頼んで、出雲大社と、日御碕へ行ってもらうことにした。

雨にけむる出雲大社。鬱蒼とした森を背景にした社は重厚で巨大だ。苔むした銅葺きの屋根が歴史と風土を物語っている。ここは雨が良く似合うと思った。が、不思議に陰鬱ではなかった。あの大きな大きな注連縄は何を願ってか? その裏山にかかる霧が、木々にまつわりながら昇っていく様は、とても神秘的で、いかにも神話の世界を偲ばせる。ここに社を建てた古代の人々の思いがわかるような気がしたと言っては大げさだろうか。雨の所為か訪れる人もまばらであった。

運転手のおすすめで大社の近くの蕎麦屋で名物の出雲蕎麦を賞味。さすがは名物のお味であった。

画家の思い出話によく出た「日御碕」の海は意外にもおだやかな波であった。雨の中、灯台に登っても……とあきらめた。もし晴れていたら、日本海が見渡せたであろうと、ちょっと残念だった。建ち並んでいるみやげ物屋で赤い貝殻を三つほど買った。

出発の時間にはまだ二時間もあったが、お茶でも飲むことにして、早々と空港につけてタクシーを降りた。

思えば、ホテルの従業員、お菓子屋の女性、名物のあご焼きを買った魚屋のおばさん、タクシーの運転手、皆おだやかな話し振りで人柄の良さそうな人ばかりだった。それは出雲の風土が培ったものだろうか。お茶を飲みながら昨日からの出来事を思い返した。

「来てよかったね」と夫とうなずきあい、出雲の旅はよい思い出となった。

同じように時間をもてあましたのか、今朝、出雲文化伝承館でお見かけした顔もチラチラと見えた。辺鄙なところと思えた出雲だが、待合室はいつしかいっぱいになり、機内の空席は少なかった。

昨日とはうって変わってミルク色の雲の中、飛行機は出雲を飛び立った。

(平成十七年)

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『日々の暮らしの雫』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。