ほころび

八月三十日(火)

今日は孝雄の誕生日ということで、特別に食事を用意した。帰ってきたのはそんなに遅くなかったが、誰かにお祝いしてもらってきたようで、お酒の匂いが……。お腹もある程度満たされていたようで……一応お肉だけは食べたけど……。

真夜中を過ぎて、心菜さんからメールがきた。お店が終わった頃だろうか。

メールには、その日、お店であったことが書かれていて、当事者は孝雄と、前に私が警告メールを送ったあの取引先の男性だった。

(やっぱり、また、心菜さんのお店に出入りしてたんやな……)

で……孝雄は今日、自分の誕生日だということで、初盆と重なって会いそびれたお姉ちゃんを紹介してもらおうと、期待満々で行ったようだ。でも、取引先の男性――佐藤さんというのだが、その佐藤さんは、私が送った警告メールのことを気にしていて、いまひとつ歯切れが悪い……それで不機嫌になった孝雄が、佐藤さんと一悶着起こしたというのだ。

その際、孝雄の口から、「あいつは正気じゃないんだ!」という言葉が飛び出し、私は頭のおかしい人ということになっているらしい……。佐藤さんとすれば、孝雄は大事なお得意様だし、そうかといって女性を紹介して公表されても困るし……それで気の毒なくらい、あたふたしていたとのこと。

(まぁ、身から出た錆やな……一番悪いのは、周りに踊らされて悪ふざけが過ぎたうちの旦那やけど……)

帰り際に孝雄が、お店のママさんと心菜さんに謝ったそうだが、その後、心菜さんは、〈私じゃなくて奥さんに謝れ〉って、孝雄にメールしてくれたらしい。それでもまだ足りないようで、〈旦那に「バカヤロー」って伝えて〉というメッセージで、最後は締め括られていた。

(ありがとう心菜さん……そして、本当にすみません……)

翌朝、布団をしまいに寝室に行くと、夫のカバンの脇に、心菜さんのお店の名刺と、「陣中見舞い」と書かれた金封が置いてあった。ちょっと笑えた。

なかまって
いろんなかたち
あるもんだ
こうかいしない
なかまにしよう
いつまでも
いつまでも

八月三十一日(水)

夜、仕事から帰ってくるなり孝雄が、

「何を書いたんや! 何てことしてくれたんや!」

と、血相を変えて私を怒鳴りつけた。私は別に公表したわけではないし、何をしたというのでもないのだが、悪行の一端が、とうとう社内の人の耳にも入ったらしい。

「じゃあ、自分は何してたん?」

と言うと、急にトーンダウンして、「そうか……」と。

九月八日(木)

「二人の女にメールしただろう! なんてメールしたんや!」

今度はどうやら、ひと月ほど前に知り合ったと思われる瑠奈さんと、最近仲良くし始めたばかりの明日香さんにフラれたらしい。実はこの二人に私は最近、また孝雄の携帯電話でアドレスを確認して、こんな内容のメールを送っていた……。

〈この人は結婚しています。独身と聞いていませんか?〉

が、しかし、私はあくまでも、心菜さんと晴香さんしか知らないふりをして言った。

「二人の女って誰!」

「……」

当然、口を割らず……。