蓮は、取り乱した心を落ち着かせようと、コップに手を伸ばそうとした。ふと視線を落とすと、いつの間にかコップには、二杯目のお茶が注がれているのに気づいた。蓮は一度深呼吸して、そのお茶に口を付けた。

祖母は、永吉が毎週日曜日に、祖母に会うためにこの家に来る事を、蓮に伝えた。そこで、祖母は口を閉ざした。

蓮は、次の日曜日にまたここに来ます、親父にそう伝えて欲しいと言い残し、祖母に挨拶して家を出た。

蓮にとってその一週間は、尋常ではない程に長く感じられたのであった。

そして、生涯忘れられない特別な一日がやってくる。

永吉の実家に到着して、三十分ほど経過した頃だろうか。玄関がガラガラと開く音が、居間に響いてきた。

「きたかね」

そう言うと、台所で料理をしていた祖母が、作業を止めて、居間を出ていく後ろ姿が見えた。

ついに親父と会える。

蓮の心臓は飛び出しそうになっていた。祖母とは違う、堂々とした足音が近づいてくる。居ても立ってもいられず、居間の中をぐるぐると歩き回り始めた。

すると、しばらくして、居間の扉がガチャッと音を立てて開いた。

蓮は足を止め、扉へ視線を向けた。

「おおう、蓮か」

「親父」

震える声をなんとか振り絞り、声なき声にした。

蓮は、念願叶い、永吉と十年ぶりの再会を果たしたのだった。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『愛は楔に打たれ』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。