富士山の真上、お釜がまざまざと見えたのが珍しかったのと、雪を纏った大山の雄大さは感動ものだった。出雲までは一時間あまりであった。空の旅は早い。

出雲は平坦な土地で田畑にもあまり特徴も見られない。暖冬の所為か雪もなく、山陰という感じがしない。駅前のビジネスホテルにチェックインして、市内を歩いてみた。

幾つかの小ぶりな高層ビルはすべてビジネスホテルで、民家は二階建て、平べったい町である。アーケードのある繁華街は眠ったように半分の店はシャッターが下りていた。所々にあるお菓子屋と、小さな魚屋だけが明るかった。

老舗らしい和菓子屋に画家の遺作展のポスターが貼ってあった。店に入って「宿禰餅」というお菓子を買った。応対に出た若い女性に聞いてみたところ、遺作展が開かれる「出雲文化伝承館」のお茶室に、その店のお饅頭を納めているとのこと、でも画家のことは知らないと言った。

それにしても「宿禰餅」とは、いかにも出雲だと思った。野見宿禰に由来しているそうである。ほんのり甘い柚子とゴマ味の求肥のお菓子だった。

聞けばこの町もまた、近郊にできた大型のスーパーマーケットに物も人も奪われて、町中はすっかり寂れてしまっている。郊外に大会社と工場が進出してきているそうである。その所為か、町に不似合いな高層のビジネスホテルだけは賑わっているらしい。

町中ではめぼしいレストランも見つからなかった。歩き疲れて、その夜はホテルの食堂で簡単な夕食を済ませて、早々とそれぞれのシングルルームで眠りについた。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『日々の暮らしの雫』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。