武山の教育隊では、区隊長以上は幹部職となる(※幹部とは将校の意)。

我が2区隊の区隊長は、UH─1ヘリコプターのパイロットで階級は2尉(中尉に相当)の方だった。引き締まった細身の体に端正な顔立ちでユーモアのセンスもある。運動神経も抜群で、我々新隊員のソフトボールの試合に飛び入り参加された時などは、唯一の打席で見事にホームランをかっ飛ばし、ベースランニングも速かったので恐れ入ったものだ。全てにおいてスマートな上官、そして教官であったと思う。

入隊して約2週間が経った頃、区隊長が我々全員を見渡して、「わずか2週間で、もう既に人相の変わったヤツがいるぞ!」そう仰った。自分の方を見て言われたような気がして、「俺の顔つきは既に自衛官らしくなったのだ。もしや俺は、生まれながらの自衛官なのではないか……」そんな暗示に巧みにかけられた気もする。

区隊長が担当された、最初の野外訓練時のことである。「どんな厳しい訓練をさせられるのか……」そう思ってビビッていたところ、駐屯地の海側にある防波堤裏に案内され、「全員、銃と背嚢を置いてその場に座れ!」と命じられた。我々は命令通り、防波堤裏の壁を背もたれにして、区隊全員がほぼ横一列になって座った。

すると区隊長から、「全員座ったら、そのまま目を閉じろ!」との指示である。皆、目を閉じた。秋の始まりの爽やかに晴れた日で、波も穏やかだ。その波が防波堤に打ち寄せる音だけが心地よく響き、ウトウトし始める者もいる。

「そのうちに急転直下、何かが突然始まるのかもしれない……」という警戒心もあったが、ついに何事も起こらず、2時間近くそのままであった。訓練時間が終わりに近づいた頃、「全員、その場に立って銃と背嚢をとれ!」という号令がかかる。態勢が整い次第出発して隊舎まで徒歩行進し、武器庫に銃を格納すると、その日の訓練は終わった。

入隊直後の新隊員ながらに「自衛隊には、これ程温和でスマートな指揮官がいるものなのか!?」と驚かされ、強く印象に残った出来事である。