3つのプランとはおおよそ次のようなものだった。

まずひとつ目は、部門ごとの収支を出すことで課題を明確にし、解決策を立案、目標を立て、それを達成するためのグループ、シンパを作ること。

いくら改革すべしと息巻いたところで、人がついてこなければ仕方ない。そして病院全体を動かすためには、まず呼び水が必要。そんな役割を担ってくれる人間を探し出し、そこから運動に共鳴してくれる輪を広げていくことが大切だ。

続いては院内民主化。

どこでもそうだが、ひとりのカリスマの舵取りで、病院という大組織が動いていた時代は遥か昔のこと。ただ現在でも、理事などごく一部の経営陣が文字通り密室で経営判断を下している病院は多い。この病院もそうだ。そんな状態では、いくら「危機は全員の責任」といったところで、誰ひとり真剣になどなれないのが当たり前である。

だからこそ、経営の方針、病院の目指すものを全関係者が共有できる仕組みが必要になる。ただし、そこまではさすがに自分の手には余るかもしれない。自分が理事長を務めていることでも分かるように、病院では理事長という経営の責任者を医師が務める例は少なくない。

もちろん、なかには経営の勉強をしていたり、素質があったりするような人物もいるだろうが、柏原にはそこまでの思い上がりはなかった。代わりに経営の専門家の力を借りればいいのだ。どうやっても知識と経験を持ったプロには敵わないのであれば、そんな人材を外から招聘(しょうへい)すればいいのだ。

最後は、1番目と2番目のプランを一過性のものにしないためのバックアップ体制、つまり最高責任者である自分が決してブレないこと、そして首脳陣の意思統一だ。

院内にはいろいろな考えがあるだろう。改革は痛みを伴う、それを嫌う人間や反対意見は必ず出てくる。そんなときにトップの意志が揺らぐようでは元も子もない。改革など100年経ってもできるはずはないといえるだろう。

だからこそ、自らが改革のシンボルになって反対やサボタージュを許さず、つねに現場での改革に関わるメンバーたちの後ろ盾となることが必要だ。それがこの病院にやってきた自分の使命であるともいえる。正しい経営によって、上山総合病院を、その規模にふさわしい優れた医療とクリーンさを兼ね備えた病院に立て直さなければ……。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『赤字病院 V字回復の軌跡』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。