現場で妄想する(現場の匂いを嗅ぐ)

三現主義(現場、現物、現在)という考え方をご存知だろうか。

スマートゼネコンマンは、誰よりも現場を大切にする。いくら机の上で素晴らしい計画を立てたとしても、現場と食い違っていては意味がないし、「さっきまでここに置いていた」という資材も、使うタイミングでなくなっていれば作業は進まない。結局、現場がうまくいってナンボだ。

そこでスマートゼネコンマンは、現場の空気と一体となって、今後の流れをシミュレーションする。というか、自分の思惑通り進むかどうか、妄想しているのだ。

実際に作業する職人の目線で、施工される資材の気持ちになって、現場が発する見えないオーラを感じながら、常に一歩先の動きをイメージするのだ。

これができていると、いざ現場に出た時に、そのイメージと食い違うところがあれば真っ先に気づく。そして、トラブルになる前に対処できる。僕はこれを、現場の匂いを嗅ぐと言っている。ゼネコン人生最大の師匠K氏とそのライバルH氏からの請け売りだ。

K氏は、僕が初めて東北支店で配属された現場の上司である。経験豊富で、とても聡明なのに加え、誰とでも打ち解けてしまう人懐っこさもある。仕事にとても厳しく、僕も何度となく叱られた。

とても怖かったけど、ここでも叱られた後に魔法の言葉「ご指摘ありがとうございます」を使いながら、K氏の教えを吸収していった僕は、いつからかK氏の弟子のように周りから見られ、僕もK氏を師匠として「いつか追い越したい」と思うようになっていった。

東北支店に配属されて3つ目の現場を迎える時、そんなK氏と若かりし頃の苦労を共にしたH氏が現場所長になり、僕の上司となった。

K氏から話を聞かされていた通り、H氏はとてもデキる人だった。スキがない、というのはこういう人の事を言うのだと思う。

どちらかというと論理的な考えをするK氏とは対照的に、H氏は野生の勘というか、直観力に優れるタイプだった。ただ、両氏に共通していたのは、どちらも日中のほとんどは事務所にいて、現場を見回るのは1日に1~2回くらいのことが多かった。

僕の方が現場にいる時間も長ければ、すみずみまで気を配って見ているつもりなのに、全く相手にならない。

いつも指摘される度に「そんなはずはない、あそこは順調に進んでいるはずだ」と思うのに、実際に現場を見てみると指摘の通りだったりする。わずか1回、2回の現場巡回でも、危険察知能力というか、現場の異常を発見する能力が全く違うのだ。

一体なにが違うのか、ストーカーのように両氏の後を付いて歩くうちに、現場の匂いを嗅ぐ、という技術があることを発見したのだ。

僕がそうだったように、多くの若手ゼネコンマンは自分の担当工事が決まっていて、広い現場の中であっても自分の担当エリアくらいしか見ないことが多いと思う。

木を見て森を見ず、という言葉があるけど、正にこの若手ゼネコンマンの状態は、森の中にある一本の木の、しかもわずか数本の枝だけを見つめている状態だ。例えその木に異常があったとしても、自分の目線の先になければ気づくことができない。

対するK氏、H氏のようなスマートゼネコンマンは、常に森を大空から眺めているから、どの木に異常があるかをすぐ検知できるのだ。

最初にこの事実に気づいたのは、H氏の現場だ。

何事も形から入る僕は、できるかどうかなんて深く考えずに、まずはH氏を真似してみようと思い立って、事務所の二階角の窓や、現場を横断するように設置されている仮設通路の上に立って現場全体を見渡すように眺めてみた。

すると、不思議とわかったような気になってくる。

そうしてから自分の担当現場に行くと、何か違和感を覚えることが増えてきた。全体で見えていた景色と、違う部分に気づくようになっていったのだ。

H氏との現場を終えると、再びK氏のもとで現場監督をさせてもらえることになった。

初めてK氏と出会ってから、3年が経っていた。ゼネコンマンとして成長した僕の姿を見てもらえることが嬉しかった。驚いたことに、当時は気づかなかったK氏の凄さに、僕は気づけるようになっていた。

自分自身も色々な経験を通して、この工事ではこうやるべきだ、というノウハウを持っていたつもりだったので、工事の計画にあたり、自信を持ってK氏に説明した。

するとK氏は、僕では思いつきもしなかった考え方、視点を次々と教えてくれて、それによって僕も新しい発見があり、どんどん計画の精度が高まっていく。

まだ何も始まっていない計画段階なのに、頭の中ではすでに建物が完成している。そう思えるほどに濃密な計画になるのだ。

やっぱりK氏はすごい。さすが師匠だ。そう思って、現場巡回の時もさりげなく同行して、K氏からありったけの技術を盗もうと必死だった。

そんなある時、K氏が「現場は、理屈で見ることも大事だけど、匂いを嗅ぐというか、そういう感覚で違和感を感じ取ることも大事だよな」と教えてくれた。

「現場の匂いを嗅ぐ」という言葉が、深く僕の胸にささった。

H氏がやっていたように、現場全体をボーっと見渡すようなことも、もしかしたら「現場の匂いを嗅ぐ」ということだったのかもしれない。

事実、両氏ともに、誰もが見落としてしまいがちなことでも察知し、未然に対処してしまうので、大きなトラブルが起こらなかったし、現場がスムーズに進んでいた。

K氏は、こんなことも教えてくれた。「いきなりそんなことできないけどな。俺たちも若い時にたくさん失敗したから、何となく危ない雰囲気というか、そういうのがわかるようになるんだよな」と。

確かにそうだ。どこに危険がひそんでいるかもわからない内から、現場の匂いを嗅ぐ、なんて芸当はできないのだろう。

でも、それまで木の一部を見ていた自分でも、こういった経験を通して、少なくともその木だけは全体を見られるようになれたのだ。

だから、現場の確認に疲れた時などは、あまり肩肘はらずに、現場全体をボーっと見渡してみると、あなたの前にもきっと違った景色が広がるはずだ。

※本記事は、2020年5月刊行の書籍『スマートゼネコンマン~残業なしで成果を出す次世代現場監督~』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。