ミトコンドリアのDNAは環状で、ヒトでは13種類のタンパク質をコードする遺伝子が載っています。ミトコンドリアのリボソームはこれらの13種類のタンパク質を合成します。

ミトコンドリアを構成するタンパク質は多数ありますが、これら13種類以外のタンパク質の遺伝子は核のDNA上に存在します。核の遺伝子由来のミトコンドリアのタンパク質は、細胞質のリボソームで翻訳されます。合成されたミトコンドリアのタンパク質にはミトコンドリア移行シグナル配列が存在して、間違いなくミトコンドリアに運ばれます。このシグナル配列はミトコンドリア行きの郵便番号のような役割を果たします。

ミトコンドリアの最も大事な役割は細胞のエネルギーの素であるATPを産生することです。

ATP産生はクエン酸回路と電子伝達系によって行われています。燃料は私たちが食物から吸収するブドウ糖(グルコース)と脂肪です。

ブドウ糖は細胞に取り込まれ、解糖系の酵素の働きで2個のピルビン酸に分解されます。ピルビン酸はミトコンドリアに入りアセチルCoAになり、クエン酸回路に入ります。クエン酸回路では、3分子のNADH+H+と1分子のFADH2がつくられます。ブドウ糖1分子からは6分子のNADH+H+と2分子のFADH2がつくられるわけです。NADH+H+とFADH2は大きなエネルギーを持った電子を、電子伝達系に供給します。

電子伝達系で、大きなエネルギーを持った電子(高エネルギー電子)は最初の電子供与体(NADH脱水素酵素複合体、複合体Ⅰ)に渡されます。

次に、高エネルギー電子は電子供与体(複合体Ⅰ)から電子受容体(シトクロムbc1複合体、複合体Ⅲ)に渡されます。そして、複合体Ⅲは電子供与体となり、高エネルギー電子を電子受容体(シトクロムCオキシダーゼ、複合体Ⅳ)に渡します。

電子は最終的にH+やO2とともに水を生成します。

電子供与体から電子受容体に電子が渡されるとエネルギーが放出され、このエネルギーにより水素イオン(H+)ポンプを動かすことで、H+が膜間腔にくみ出されます。ミトコンドリアの内膜の内外にH+勾配が形成され、ミトコンドリアの膜電位が生じます。

MAFを処理したテトラヒメナやウニの精子ではミトコンドリアの膜電位が上昇しました。これは、電子伝達系の働きが上昇していることを示します。これがMAFによるミトコンドリア活性化の根拠です。

膜間腔にたくさん貯蔵されたH+は内膜上のATP合成酵素を通ってマトリックスへ流れ込みます。このとき、H+の移動に伴って放出されるエネルギーによってADPがATPにリン酸化されるため、電子伝達系とATP合成を酸化的リン酸化と呼んでいます。

水力発電にたとえてみれば、H+はダム湖にためられた水、ATP合成酵素は発電機に対応します。

水力発電では、大量の水を高いところから流し、その水流で発電機のタービンを回し発電します。

電子伝達系では膜間腔にH+をたくさん蓄え、H+はATP合成酵素を通ってマトリックスに流れ込みます。このとき、ATP合成酵素はタービンのように回転して、そのときに生じるエネルギーでATPを産生します。水力発電とATP合成が似ていること、おわかりでしょうか?

もう一つの燃料、脂肪(脂質)について説明します。脂肪の大部分は脂肪酸です。細胞のなかに取り込まれた脂肪酸はミトコンドリアの表面にある酵素によって、反応しやすい形の脂肪酸アシルCoAになります。これを脂肪酸の活性化といいます。脂肪酸アシルCoAは脂肪酸アシル運搬体の働きでミトコンドリアのマトリックスに入ります。

炭素が16個直線状に並んでいる脂肪酸、パルミチン酸を例にして、脂肪酸の酸化作用(β酸化)について説明します。パルミチン酸は活性化されてパルミトイルCoAとしてマトリックスに入ります。そのCOOH末端(カルボキシ末端)から2炭素がアセチルCoAとして分離して、クエン酸回路に入ります。パルミチン酸は炭素数が16個なので、β酸化の反応全体で8個のアセチルCoAがつくられます。

クエン酸回路ではアセチルCoA 1分子当たり、3分子のNADH+H+と1分子のFADH2がつくられるので、パルミチン酸の場合は24分子のNADH+H+と8分子のFADH2がつくられます。

ブドウ糖とパルミチン酸を比較すると、電子伝達系に供給されるNADH+H+とFADH2の数はパルミチン酸のほうがブドウ糖より4倍多いことになります。その分、ATPの産生量もブドウ糖より脂肪酸であるパルミチン酸のほうが多くなります。

MAFを摂取した2型糖尿病モデルマウスでは、血糖値や血中遊離脂肪酸の量が低下することと内臓脂肪が低下することがわかりました。これは糖代謝や脂肪代謝が上昇し、ミトコンドリアでの酸素呼吸が盛んになっていることを示します。これは、MAFが個体レベルでもミトコンドリアを活性化している根拠です。