一緒に降りた。

「俊さん、今、駅にいるけど。どこ?」

男性二人がこちらに向かって走って来た。

あの人だろう。前を走っている人がご主人だろうな。真面目そうで裕福そうで素敵な人だ。ああー諦めるしかないな。

「今井と言います。妻に何か用でしょうか?」

「すみません。僕は怪しい者ではありません。僕は山本と言います」

名刺を出した。ご主人は名刺を見て余計びっくりしている。

女性はもう一人の男性の後ろに隠れている。

「奥様を見かけて、追いかけてきました。十年前に亡くなった妻にあまりに似ていたので秘書をおいてここまで来ました。優しく笑う姿、癒される雰囲気、清楚な服装、僕は五十五にして一目惚れしました。ここで声をかけないと後悔すると思い付いて来てしまいました。もしあなたがだめそうなご主人だったら奪い取ろうと、思ったのですが、あなたを見て諦めがつきました。

……一ついいですか? 奥様はお金に興味がなく、ふんわりしていて、しっかりしているでしょう。包みこんでくれるでしょう。一緒に居て癒されるでしょう。僕もたくさんの人を見てきたからわかります。うらやましいです。あなたより先に会えていたら良かったと思いました。大切にしてください」

「妻をほめていただいてありがとうございます。山本さんの言う通りの妻です。後ろにいる友人もその一人です。妻は本当におっとりしていて素晴らしい女性です」

「失礼を承知で聞きますが奥様は、あげまん、ですね」

今井さんから握手を求めてきた。

「はい、素晴らしい妻です」

「初めて振られた女性が素晴らしい方でよかった。これで、帰ります」

悔しさと残念さで心が痛い。今日の酒は苦くて不味いだろうな。

今井さん編

「行こう。大丈夫だよ。ゆりが亡くなられた奥様に似ていてつい声をかけたそうだ。心配しないでいいよ。一人で帰れる? タクシーで帰りなさい」

「はい」ゆりをタクシーに乗せて帰した。

「今井、今の方、見覚えがあるぞ」

名刺を手渡した。

「やっぱりそうか。先月雑誌の対談に出ていた方だな」

「そうだよ」

「京都で有名な和菓子屋さんで、資産家で独身だよな」

「とても紳士だったな。ゆりにかかったら、ただの変な人で終わりだね」

「ゆりさんって、すごいなぁ。アハハハハ」

「まったくだ」