夢の中での私の居場所というのは、瀬戸内海沿いの港町のようでした。

一〇代の頃沿岸の港町を実際に旅行で三つほど巡ったことがあるのですが、その町のひとつに何となく似ています。

それぞれの町に一日ないし二日の短い滞在でしたが、旅行を現実にしたことがあるので、その時の町の雰囲気を何となく覚えていたのだと思います。夢の中の町もそれに似た雰囲気を持っているような感じでした。

でも実際にそれらの港町のどこにいるのかというと、私には夢に出てきた景色に覚えがあるようなないような、本当におぼつかない印象しかもてません。

夢の中ではあちこち歩き回っているのですが、その町に一度でも現実にいたことがあったかどうかと聞かれたりしますと、ちょっと答えに困ってしまいます。

とにかく私はぼんやりした意識のままで、もう見てしまったようでもあり、そうでもないような風景の中にいます。そのような感じ方で、どこか街路の一画を夢の中で歩いているようです。

そして歩きながらどういうわけかあのひとのことを考えています。それ以外のことは何も考えず、急な坂道を登って行きます。

でもあまりに坂が急なのでかなり前かがみになってしまい、両手の指先はほとんど地面につくかつかないかの状態でしたから、他の人から見たらお尻を少しつきだしへっぴり腰で前進しているといった感じで、かなりぶざまでみっともない姿と見られていたに違いありません。

それぐらいの前傾姿勢にしないと、少しでものけぞるようなことがあれば、そのまま仰向けに倒れてしまって、坂道をあっという間に滑り落ちてしまうのではという恐ろしさでいっぱいでした。

一つの坂が終わってやっと平地に近いところに着き、ほっとして登ってきた坂の下の方に目を向けますと、ほとんどすべての方向に放射状というのでしょうか、さまざまな坂が下へ下へとめまいを起こさせるほどの急勾配で通じているのです。

そして全てこれらの坂は道幅が狭くて息苦しい感じがしましたが、坂道の両側に家屋が大中小と並び立っているたたずまいでは、整然とした市街区域のようにも見えました。

そうはいっても、せせこましいといった印象は変わりません。

両脇の家の並びと、間を通っている坂道は一つに溶け合っている感じで、坂道の状態は昔ながらの石畳もあれば、土で固められただけのものもあり、またきれいに現代風にコンクリートで舗装されてしまっているのもありといった風にさまざまでした。