これに基づいたトヨタの実践は次のように見られる。

(1)コストリーダーシップ戦略、ベスト・プロダクトトヨタは、もともと全車格に様々な車種を投入するフルライン戦略を取ることで、国内で圧倒的なシェアを築き上げた。

そして、圧倒的な販売台数を誇ることで、固定費を下げて国内メーカーに対してコスト競争力を出している。

また、トヨタは成長していく過程で、米国を中心とした海外進出を加速させており、その際には生産効率という点において、海外メーカーに対して競争力を発揮してきた。

具体的には、トヨタと言えばTPS(トヨタ生産方式)が世界的に知られており、かんばん方式やアンドン方式、ジャストインタイムなど、世界の製造メーカーがお手本とする生産体制を構築している。

特にカイゼンの文化は、日本独自の文化として、高度成長期の自動車業界の急成長をけん引した。

(2)市場浸透戦略トヨタは販売のトヨタという異名をとるほどマーケティングがうまい。

古くから、販売会社ブランドを顧客層ごとにわけることで、販売店同士の競争や顧客満足度を向上させてきた。

90年代のキャッチコピーとして「いつかはクラウン」というものがあり、まさにトヨタのブランド戦略を映し出している。

また、トヨタは戦略的に参入障壁を作るのもうまい。

具体例で言えば、ハイブリッド車プリウスで国内メーカーを圧倒していた時代に、ホンダがプリウスより40万円以上安いハイブリッド大衆車インサイトを189万円という価格を出してきた。

この時、トヨタはすぐに現行プリウスを40万円以上値下げして190万円までディスカウントした。同時に、性能の良さをアピールするブランド戦略を取ることで同じ価格ならばプリウスの方が良いと顧客へ訴求していった。

これにより、他社がハイブリッド市場に参入する場合プリウスが参考価格になるような状況を作り出し、開発費の回収を難しくして参入を阻んだ。

(3)製品開発戦略トヨタは製品開発においても、常に業界をリードして新製品を市場投入することで、自動車の機能向上と付加価値向上させる戦略を取ってきた。

最も代表的な事例で言えば、世界初の環境対応車としてハイブリッドシステムを搭載した自動車プリウスの投入が挙げられ、同じ車格のカローラと比較して50万円以上も高い価格設定ながら、原油高などの外部環境の恩恵を受けて、販売を伸ばした。

まさに、ユーザーの利便性を上げつつ、自社の付加価値も上げた製品開発戦略のお手本事例。

その他にも、古くはディーゼルエンジンの国内初搭載やオートマチックトランスミッションの国内商用車での初採用などが挙げられ、トヨタは業界で存在感を示し続けている。

創業の頃の企業理念である産業報国、研究創造、質実剛健、報恩感謝などはさすがに時代を感じさせるが、世界一の自動車メーカーになったのも、この企業理念があったからこそであろう。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『企業の持続的成長を目指して』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。