居間に座った蓮は、祖母から出してもらったお茶を頂戴した。

「よくきてくれたねえ。さあさあ」

「ありがとう」

蓮は、最後に会った記憶を手繰り寄せて、祖母の顔をまじまじと見つめた。幼い頃と比べたら、皺が増えていて、顔も小さくなり、痩せているような気がした。

「蓮君は、今いくつになったかい?」

「えっと、十九歳」

「そうかい。しかし大きくなったねえ」

蓮は緊張してのどが渇いていたせいか、キンキンに冷えたお茶を、一気に飲み干した。家の中は静まり返っている。祖母のか細い声が、居間中に響き渡った。

「親父はね、別の女の人と再婚して、今は隣町に住んでいるんだよ」

「隣町? そうなんだ」

祖母が言う親父は、永吉の事だとすぐに察しがついた。永吉は若い女性と暮らしていて、子供も二人いると言う。そうか良かったと、何気なしにほっとした自分がいた。大袈裟かもしれないが、蓮の中では生死すら分からなかった永吉は、無事だったのだ。しかも新しい家族と一緒に暮らしている。新しい家族、か。

蓮は同時に嫉妬心を覚えた。一人寂しく自分を待ってくれている訳ではないんだな。

「離婚の原因は何だったの?」

蓮は、これまでに知る事のできなかった謎を解くために、祖母に質問をぶつけた。この十年、ずっとそれを知りたかったのだ。

「それはねえ」

祖母は睨みつけるようにして、蓮の顔色を窺った。蓮は、祖母が小さく頷くような仕草を見せた気がした。蓮は、祖母から目を離さなかった。

「よかろう、話してあげようかね」

祖母は、体を横に向けたまま目を閉じ、記憶を絞り出すようにして険しい表情をしている。窓の外からカラスの鳴く声が聞こえた。蓮は何故、今になってこの家に来たのかを話さなかったが、祖母は何も聞いてはこなかった。それから少しの間があって、祖母は重たい口を開いた。

「あんたのお母さんはねえ。毎日、苦労が絶えなかったんだ」

「苦労?」

蓮の様子を窺っていた祖母は、額から流れ出る汗を拭きながら、話を始めたのだった。それはまだ、両親が家族だった頃の話であり、夫婦生活の話、二人が離婚した理由であった。初めて聞く祖母の話に、蓮は神経を集中させた。

なにしろ、家族は滅茶苦茶だったそうだ。夫婦仲というより、姑問題というべきだろうか。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『愛は楔に打たれ』(幻冬舎ルネッサンス新社)より一部を抜粋し、再編集したものです。