シカゴ及びテキサスでエンロンの会計監査を担当していたアーサー・アンダーセンは世界屈指の会計事務所であるにもかかわらず、エンロン事件解明の過程で事務所の解体に追い込まれた。このときのもうひとつの偽計は、「関係会社(Related Party and/or Interest Entity)」を使った二重信用の生成だった。

エンロン事件の少し前に、ニューヨークの不動産会社がカリブ海に二つのペーパーカンパニーを作って節税したケースでは、米国歳入庁(IRS)がその海外デュアルカンパニー方式の違法性を訴求した事件があった。そのデュアル方式も活用して、資金の動きが分からないように、財務諸表上の表記が工作されていたと言われる。

例えば、ペーパーカンパニーを通して資金を提供すること、ペーパーカンパニーへの資金の出し手である関係会社から見れば融資だが、そのペーパーカンパニーからの資金の受け手である当該企業からすれば出資(資本金)と見做して、当該企業の自己資本が充実されているように株主に対して見せかけるのである。

その後、米当局は親会社と一体と見做す関係会社の範囲を出資比率10%から実質的影響力基準(Substantial Test)へと変更し、ペーパーカンパニーを通した脱税などの行為を抑止するようになった。このエンロンの事例では、前者の通信技術に係わる解釈判断に対する二重性と、後者の金融技術での財務表記上の二重性という、いずれも信用の二重構造を作り出して利用した。

まだ通信回線技術の発達という前世紀の段階でこのような信用の二重性が起きた。そして、その後の二十一世紀に入ってからの情報処理技術がデジタル革命とも言われるほどにソフト・ハード両面が変容した中では、その最先端技術が生み出すリスクは二重性などよりもっと多層かつ複雑になった。

世紀末のエンロン事件における信用の二重性は、現在直面する情報化リスクの本質をやや古い過渡的な形で現したと言えるのではないだろうか。

※本記事は、2021年4月刊行の書籍『情報化・電動化・知能化のリスクマネジメント』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。