第2章 解釈

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書き終えてビールを飲んだ。今、売られている商品がこれらの要件を満たしているとは、とうてい思えなかった。クルアーンが書かれたのは西暦600年頃のサウジアラビア。今から1400年前だ。

当時と今では食品加工技術が相当違う。当時は豚肉を豚肉としてしか食べなかっただろう。今では、豚肉からハムやソーセージの加工品が作られる。

それだけじゃない、豚の骨のコラーゲンを溶解して、粉末化したのが粉末ゼラチンだ。ゼリー作りには欠かせない添加物だ。疑問が次々に湧いてきた。

軽くなった缶をそのまま口に運んだ。調味料のしょう油はどうだろう。大豆を微生物で発酵させて味噌みたいなものができる。それを絞って出てきた液体がしょう油だ。途中発酵させる。

ということは当然アルコールが分泌される。完全に蒸発しないから、しょう油にはアルコールは残っている。ということはしょう油も使えないのか? だとしたら納豆とか味醂とかもダメなんだろうか?

缶ビールを握ると少し凹みができた。ハラールという謎の物体で頭の中に凹みができたみたいだった。食品加工に詳しい人ならもっと疑問が生じるだろう。

食感を改良する食品添加物なんて無数にあるし、その製造工程の全てを理解している人なんてまずいない。企業秘密だってある。出来上がった最終商品を見たってハラールかなんて分かりっこない。

香料、酸味料、着色料、酸化防止剤、ゲル形成剤、発色剤。どれが○でどれが×なんだろう。食品添加物の1個1個の製造方法を追跡しなければハラールだとは言い切れない。そんなことはほぼ不可能だ。疑いだしたらキリがない。

キッチンに行き、冷蔵庫を開けた。冷えたペットボトルの横になぜかスティック・シュガーがあった。コンビニの店員が間違えてビニール袋に入れたものを捨てずに入れておいたのだろう。この砂糖はどうだろう? サトウキビから取れる植物性の調味料だ。この言葉の響きだけだと完全にハラールだ。

豚もアルコールも無関係。でも食品加工を知っているならこう考える。もとは茶色いサトウキビのエキスがなぜ白くなるのかと考える。白くする加工工程があるはずだと。

ペットボトルとスティック・シュガーを持ってテーブルに戻った。パソコンで詳しく調べようとした時に、ペットボトルの水で湿ったスティック・シュガーが破れそうだと気づいた。スティック・シュガーを急いでペットボトルに流し込むと、砂糖が水の中をゆっくりと沈んでいった。キラキラ光りながら。蓋をして逆さまにしてキャップ部分を握り、振り混ぜた。そして飲んだ。

「ハラールかどうか分かりっこないか」と思った。

※本記事は、2019年12月刊行の書籍『きみのハラール、ぼくのハラール』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。