一番美しい皇居のおほりは何処?

江戸時代には水の都と言われた江戸・東京も、関東大震災と東京大空襲の後、水路が廃棄物処理場として使われ、下町の市街地の濠はかなり埋め尽くされて、元の姿を完全に残しているのは皇居の内濠です。

その内濠で何処が一番美しいと思いますか?

皇居の位置は武蔵野台地の東端にあるので、山の手側の西側の濠は高く、東京湾に面する東側の濠は低くなっています。

従って、皇居の西側ではお濠を高い所から眺めることになり、東側では水面に近い位置でお濠を眺めることになります。お濠の表情は、その周辺の石垣や土手の松などの樹木や草花で変わります。更には、皇居の外側のビル街との関係でも変わります。

先ず、見応えのあるお濠は千鳥ヶ淵です。

北の丸公園の田安門から千鳥ヶ淵を巡るコースが桜の名所ですが、お濠を見下ろせる素晴らしいコースです。桜の咲く時が一番良いのですが、混み合うのが嫌なら桜の葉が紅葉する秋もお薦めです。

次に、半蔵門から桜田門へ続く桜田濠が見所です。この辺りは、お濠から外縁の市街へ視界が広がり、お濠の水面も一番広く見えて、多分、内濠の中でここが一番豪快なお濠の景色を楽しめる場所です。お彼岸の頃には土手に曼珠沙華が咲いて、鮮やかな朱の色を添えます。

半蔵門から外桜田門の方向へ歩きながら桜田濠を見下ろすと、雄大なパノラマ風景が展開します。その美しさを、戦前と戦後の日本に住んだフランスの詩人で画家のノエル・ヌエットは、その著書「東京のシルエット」で次のように描写しています。

「半蔵門から桜田門にかけての一帯こそは、皇居のまわりで最も美しい風景が展開している場所である。そこはゆっくり歩いて下らねばならない。そうすると、大きな緑の斜面が鋸歯状になって続き、すこしずつ姿を現わし、互いに近よるかと思うと遠ざかるように見える」

お濠と石垣のアンサンブルを眺めるなら、竹橋から北詰橋門の間の平川濠が最高です。

関東一帯には築城のための石材が少なかったので、江戸城は大坂城に比べて石垣は総じて貧弱ですが、平川濠の石垣はかなりの高さで長く続くので、石垣の所々に縦の襞を付けてあり見応えのある石垣です。その石垣の上には北桔橋門の屋根が見えます。

お濠の水面を身近に眺める場所なら、日比谷通りに面した馬場先濠と日比谷濠が良いでしょう。皇居内には楠の巨木が濠の縁に並び、日比谷通りには丸の内のビル街が並んでいます。

濠を隔てて近代的ビル群と緑の帯が並立する風景は、東京でもここだけしかありません。